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切った電話を見つめ続ける。
耳の奥には「おやすみなさい」と嬉しそうに言った声が残っていて、羞恥心から心が痛む。俺は師と言う立場を利用して、あの子の気持ちを利用して、いい大人が子供を振り回してどうするつもりなのだと。
初めて出会ったあの時、真っ直ぐで澄んだ瞳に惹かれた。
その綺麗な瞳はこちらを見透かすようでもあり、刺すような眼差しは見定めるようでもあった。それはさながら、真剣を抜いた時に感じる力量を探られる感覚だ。
沙織は天性の感を持ち合わせてはいないが事細かな動きを意識し、理詰めで動きを予測して瞬時に最善を選択して動こうとする。さらには、その動きを可能にするだけの努力と鍛錬を惜しまない。
自分に沙織と同じ真似が出来たのは、高校を卒業する手前ではなかっただろうか。背が伸びなくなって、勝てなくなって、そうして初めて指導者の言葉を理解しようとしたのではなかったか。
誰に教わる訳でもなく初めからそれが出来る彼女を、だからこそ子供としてみる事が出来ないでいるのだ。
それでも、彼女はこれから広い世界に出て行く存在で、そこに誘うのが自分の指導者としての存在意義のはずだ。
それでもこの気持ちを手放すことは出来ないでいる。
だからこそ、教師と生徒と言う立場を枷として区切りを付け、この先も関わっていきたいと考えて提案してしまった。そう誘ってしまって、名前で呼び合うことを受け入れてしまって、やはり自分は卑怯な人間なんだと実感してしまった。
それでも彼女のそばに居たいと思う自分は、愚かだと思う。




