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彼女の成長には目を見張るものがあった。
それは翔真にも言える事だが、幼い頃からやっている子と比べると格段に速い。
指導を理解しない歳から変な癖が付けてしまうよりも、一つ一つ理解しながら吸収する方が身に成り易いのかもしれない。
そして、その上達と比例して思いが募ってくる。
真っ直ぐな瞳にドキリとすることも多くなってきていて、他の指導者に代わってもらう事も考えはした。考えはしたが、どうにも踏ん切りがつかないで年を越してしまったのだった。
寒稽古は道場の方に来たが、これが最後になるだろう。
来年からは県連の方に出る必要があったので、館長に無理を言って彼女を試合に指名してもらった。
彼女の活躍を見て去りたかったのだ。
思った以上に緊張していた彼女に、声をかけてミスをしてしまう。彼女の名前を添えてしまったのだ。思いの中だけで呟いていたその名前を。
馴れ馴れしいと怒らせてしまっただろうか、気持ち悪いと思われてしまったかもしれない。慌てて面を付けるそのしぐさに心が痛み、彼女を傷つけてしまっただろう行為に心が折れそうになる。




