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とりあえず三者とも落ち着いたところで、全員がテーブルに着いた。
「なんていうか、助けてくれたことに関してはありがとう」
向かいに座るベルに感謝を述べる。
「あ、いえ……」と両手を前に出して謙遜しているが、正直あのまま追われていたら、土地勘のない俺は追い詰められていたかもしれない。
まあ、追い詰められたところで殺されるわけではないのだが。
「で、ここは一体なんなの?」
「おう兄ちゃん。話はするが、信用ならねえ奴に情報をペラペラしゃべるとでも……」
「ここはピエトロさん達の隠れ家だよ。世界各国に股を掛ける情報屋の支部の一つなんだって」
ピエトロが大見えきって威圧しようとしたのが、ベルに阻まれる。
なんで教えちまうんだよ、情報屋の存在ってのは、逆に秘密なんだぞ! とピエトロがぷんすかしている。
「へぇ。そんなところがねぇ。ってことは、二人ともトラロルガの人間なの?」
一人はネコっぽい耳してるし。
「もういいや。ここは俺っちが所属している情報組織、蓑羽根のアシュタリカ支部だ。ちなみに俺っちが署長な? トラロルガとは関係ない」
「私はただの居候。ベルティです」
「ああ、俺は古沢竜馬」
三人の自己紹介が終わり、ピエトロとは別の小人が飲み物を運んでくる。そういえばこの二人は種族的に何になるのだろう。
「まずはそっちの事情を聴こうか。なんで同じ人間なんかに追われてたんだ? 犯罪者には見えないが……」
ピエトロが飲み物を口に含みながら訪ねてくる。どうやら情報屋らしく、何かネタになるのではないかと睨んでいるようだ。
別に隠すこともないので説明する。異世界から来たこと。貴族に使えることになったこと。戦争でどえらいことをしでかしたこと。そのせいで追われていたこと。
いきなり異世界から来たとか言ったから呆れられるかと思ったが、案外素直に話を聞いてくれた。
「異世界人か……。それは寝物語で言ってるんじゃないだろうな?」
何か考え込んだ様子でピエトロが確認を取ってくる。ベルにも地上で起きたことを確認して、何か思い当たる節があるようだった。
ひょっとして俺以外にも、異世界人がいるのだろうか。
「嘘は言わないけど……。他にも異世界人がいたりするの?」
「いや、いま現存するかわからねぇが……っと、お前さんがそうだったんだな。そもそも、この世界の『知能』を持った生物は、その祖先が皆異世界からやってきたっていう説があったなと思ってよ」
話を聞くと、もう文献も残っていないはるか昔。この世界には知能を持たない獣や動物しかいなかった時代に、十二の種族が異界の地から現れた。
知能を持った彼らは生きるために協力し狩りをし作物を作り始めたが、土地という概念を持つ彼らは、その種族の数を増やすにつれ争うようになり、七つの神より収める土地を割り振られることになる。
そしてその領土が、現在の大まかな大陸図になっているのではないかと言われている。と説明してくれた。
「情報を扱う身としては、そんな伝承があるだけに、異世界人なんてのも馬鹿にしてられないってことさぁ」
腕を組みながらこちらにニヤリと語りかけてくるが、いかんせん背が小さいので、顔半分テーブルの下に埋もれてて凄味がない。
「ま、その話が本当なら、あんまり心配する必要もなさそうだな」
と言って、椅子の上に腰を降ろしたのかひょこっと顔が沈む。
「じゃあ、今度は俺から質問。まず、お二人の関係は? というか、種族的には何になるの?」
なんか交友関係に嫉妬したみたいな聞き方になってしまったが、問題ないだろう。
「俺っちはモルモン族だ。まあ見ての通り小柄だが、国はあるんだ。ほとんどだれも場所を知らないぜ。ちなみにホビットと呼ばれたりするが、まったく別の種族だから間違えないでくれよ!」
「私は豹虎と人間のハーフ。まあ、そんなだから、向こうでもこっちでも住みづらくて、ピエトロさんのお世話になってます」
聞けば、まだ戦争が過激化していなかったころ、人間の母と豹虎の父の間に生まれ、捨てられたのだという。それが理由で、人間らしい肌とネコ科らしい耳と尻尾があるらしい。
だが、その特性は結構有用性があるらしく、マントで頭を隠せばほぼ人と変わらない。人間や豹虎の街に住民として住み着くには支障が出るが、時折表に出て情報収集などのピエトロの手伝いをするにはうってつけらしい。
というか可愛い。
この世界にも、亜人のような存在を愛する開明的な人間はいるんだなと感心した。子供を捨てたことは許せないけど。