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混住問題


 とりあえずは、何とか住めるようになった建設中のピーネの屋敷に隠れ住むことに決まった俺は、マントを深くかぶりピーネと共に屋敷に向かっていた。

 新しく配下になりたいといってた面子は、主を鞍替えするにあたってやり残したことやなんかをかたずけるために一度それぞれの帰路につかせた。

 幸いベルゼス伯の家人が人払いをしていてくれたらしく、街中に来るまでは見られていない。

 ピーネの新屋敷はこの貴族域にはないらしく、一度街を抜けて反対に行かなければならない。どうやら土地の値段とかの問題でそちらにしか建てられなかったようだ。


「そろそろこれ、脱いでもいいんじゃないかな」


 武器を背負ったままの竜馬がポンチョにも似たマントを頭まで被っていると、輪郭に似合わずいろんなとこが引き締まって歩きにくい。

 むしろこんな格好してるほうが目立つんじゃないだろうかと思ったのだが、ピーネは頷いてはくれなかった。


「顔をきっちり見た者は少なくない。本来なら私と歩いてるだけでも勘繰られるんだ、我慢しろ」


 と言われても、すでにいろんな人に指さされている気がする。

 悪い予感は当たるもので、すぐにばれてしまった。


「ピーネ様ではないですか! ということは、となりの御仁が例の戦神でございますか? いや、わたくしも当時あの場で拝見していたのですが実に素晴らしい働きでした。どうです、これから私共とお茶など……」

「あの活躍、見てました! 一体どんなことをしたらあのような戦い方ができるのでありますか!?」

「いや、あの忌々しい豹虎が空を飛ぶ様、実に爽快でしたな」


 等々……


 しばらくは無視して歩いていたのだが、やがて人垣は群れとなし、戦勝ムードも相まって完全に道をふさがれてしまった。


「まずいな……これだけ人がいては振り切るのも困難だ」


「ど、どうする?」


「私が相手をして注意を惹く。その間に姿を眩ませ。そうだな、西の住宅区にあとでニーナをよこす。そのあと新居で合流しよう」


 どうやら西の山脈側に一般人の住宅地があるらしい。戦時には山脈に穿った洞窟に身を隠せるようになっているのだと。


「了解、じゃあまたあとで」


 俺は一瞬で腰を落とすと、這いつくばるように人ごみの中を分け入っていった。やだあれGみた~い、とは言ってほしくない。

 しばらく進むと人垣から抜けて、やっと広いところへと出ることが……


「あれ、リョーマさんじゃないですか! もうお話は終わったんですか?」


 あの戦場でピーネの旗本に付いたカーフェイとかいうやつが、仲間と共に酒瓶を片手にスクラムを組むように屯していた。

 お前ら一旦自分たちの屋敷に戻ったんじゃなかったのかよ!

 群衆がこちらに目を向けるのにはそれで充分だった。ピーネを中心として騒がしいとはいえ、隅っこのほうはそう煩いわけではない。

 ピンときたものがニ、三人こちらを確認してしまえば、それで終わりである。


「やっべ、お前ら、どいてくれ!」


 わああ! っと群がってきそうな人たちを背景に、俺は走り始めていた。

 群衆というのは、それだけで脅威である。

 考えても見てほしい。以前例に挙げたコミケだが、あの人間が一斉に自分めがけて一斉に走ってきたら。死ぬ。間違いなく死ぬ。というか、ものすごく怖い。

 ましてや今の俺には特別な力が発動していないようで、それを押し返せるような状況にもない。

 自分の生まれ持った能力でもってここから逃げるしかないのである。

 角を曲がりそこを右折し、しばらく走って身を隠す。聡いものが「あそこだ!」と声をあえて、同時に俺も走り出す。

 そんなことを繰り返していたとき、路地裏の横道から急に目の前に、にゅっと白い手が出てきて「こっち」と俺の服を掴んで引きずり込んだ。

 とっさのことに反応できなかった俺は勢いをつけたまま壁にぶつかり、引っ張られる。


「あ、ごめん」


 と小さな声が聞こえて、二つの影は地下へと続く階段の奥へと消えた。

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