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そろそろ日常回とか挟みたいですね。
特にピーナの仮屋敷での一週間とか書きたいです。
「で、この事態はどうしたものかね」
ペルゼス伯の屋敷はアシュタリカの程よく中心に位置した、一等地に建てられていた。
実を取ったようなその作りは華美な装飾をそれほどせず、されど手入れだけは入念に手入れがなされており、決して他の侯爵や伯爵の屋敷に引けを取らない荘厳さを放っていた。
いや、要塞都市であるということを考えれば、ベルゼス伯爵の屋敷こそこの街で一番それらしい門構えといえるだろう。
その屋敷の応接間の中、幾人かの使用人と古沢竜馬、ピーネ・マーキス子爵、ベルゼス・アウリオス伯爵は向かい合うようにソファへ腰を降ろしていた。
「すでに街では様々な憶測や噂が駆け回っているようです。その多くは、王都の秘密兵器や極秘研究を仄めかすようなものでございました」
ベルゼス伯の後ろに直立して立つ白髪の老執事が、戦後の情報を細かく伝える。
豹虎族はトラロルガの主要都市にむけて南下。撤退を開始し、人類は歴史上類を見ない大勝利を収めた。
その勝因は王都の隠し玉であり、圧倒的な戦闘力を備えた強化人間によるものである。
どうやら「それ」は王都より出向されてきたマーキス子爵のもとで秘密裏に運用されているらしく、今回その存在が明るみに出たのは制御が効かず暴走したからだ。
まだまだ細かいものを上げればキリがないが、大部分の内容を統合するとこんなところである。
「まさか君の連れてきた子犬だと思っていた者が、こんな本性を隠しているとは思わなかったよ」
「不肖の至りでございます」
ゆっくりと、タンタンとテーブルの上を指で叩くベルゼス伯に、ピーナが頭を下げる。
ベルゼス伯の行為に、威圧的な意図はない。ただただ考え事をするときの癖なのだろう。空いた片手は頭を抱えていた。
「いやぁ、なんか、大問題になっちゃったみたいで、どうもすいません?」
竜馬としては、大軍を退ける貢献をしたのだから大した問題はなく、それどころか称賛っされてもいいんじゃないかと思っていただけに疑問形で答える形になった。
「まず話を整理しよう。報告には上がっていなかったが、君は異世界からきた人間である。豹虎族に追われている所をマーキス子爵が助け連行。この時、異常な現象を確認するも、その後不穏な行動もないからマーキス子爵の付き人となる。そして先の戦闘で超常的な力を発揮し、およそ五万の軍勢のうち一から二万を撃破する」
「申し訳ございません。異世界というのはどうにも荒唐無稽な虚言としか判断ができず、報告いたしませんでした」
「いや、それはいい。私とてそのような世迷言、信じることはできないからな。ましてや我々のような立場であれば、そんなことを周囲の者に吹聴しただけで爪弾き者にされかねん」
あるいは、王都のような危機のない平和なところであれば、ある種の絵空物語としてお茶の間を楽しませることができたかもしれない。
だがここは軍事要塞であって、そういった「頭のおかしい」ことを言いだせば、一気に信用を失うのである。
誰だって正気を失った奴に背中は預けたくはないのだから。
「あのぉ……、それで、いったい何が問題だったんでしょうか?」
あまり雰囲気に馴染めていない竜馬の発言である。
使用人女性の入れてくれた紅茶は芳しく、リラックス効果を放っていたようだがあまり効き目はないらしい。
「何もかもだよ。君自身、立場が危ういと思いたまえ」
「活躍したのがそんなにまずかったんですか?」
「いいかね。我々人間は主に領土拡大を掲げて戦っている。そのために必要なのは他の部族を圧倒できる力だ。そしてそんな力があればいくらでも功績をあげることができる。誰もが君を配下に置きたがるだろう。君の功績は主の功績になるのだからな。領土を拡大できた暁には広大な土地を収める権利が与えられ、莫大な利益が手に入る。しかしだ、君を今配下に置いているのは誰だ? そう、マーキス嬢だ。君はこれから多くの引き抜きという、別の意味の内戦に巻き込まれるのだ。そして引き抜くための最も単純な方法はなんだ? マーキス嬢がいなくなればいい。これがどいう意味か分かるな?」
それを聞いて俺はハッとした。
それはつまり、我欲や嫉妬の類でピーネの命が狙われる危険性があるということだ。
それだけではない。俺が他の貴族に靡かなければ、それは自分たちの功績をあげる機会を失うことになる。競争という社会の中で行われるのは、優秀な人間をいかにして蹴落とすかだ。
戦場で一騎当千する戦人でも、日常生活の中では隙が出る。つまり、暗殺なんかに乗り出してくる奴がいないとも限らないのだ。
実際、普段生活してる分にはあの超常的な力が発揮できない俺にとっては、危険極まりない環境になるといえる。
「いやいや、でもそれはさすがに考えすぎじゃ……」
と言おうとして考える。もしも。もしもだ。目の前に誰でも操れるモビ〇スーツがあったとしよう。タッチの差で誰かに奪われてしまったら、果たして何も言わずに引き下がれるだろうか?
ガン〇ムだぞ?
戦争という生き残りを掛けた状況で、ガ〇ダムがあと一歩で誰かにとられてしまった。
でも中にいるのはただの人間だ。金や権力でそれが譲渡されるならそれに越したことはない。
そうでなくとも、所有者が「不慮の事故」に逢ったのなら、自分が操縦できるかもしれない。
「……考えすぎじゃないですね」
全然大丈夫じゃないという結論に達した。
ジーパンのケツの部分が破れてきた。
果たしてこのまま「ファッションだ」と言い切って、パンツが透けた状態で生活してもいいものなのだろうか。