夕暮れ時藍色の二人
ベッドに転がってスマホをイジるなんでもない時間。
冴えない空模様の夕暮れ。
ガタンとドアの閉まる音。
カタンと鍵のかかる音が聞こえて、あぁ、帰って来た、とスマホから目線を外すと微かな足音は部屋の前で止まった。
薄暗くてイマイチ様子がわからないが、無表情にも近い疲れた顔で開けたままの戸に寄りかかっている。
「おかえり」
すると、はぁっとため息が1つ。
ストンと右手からトートバックが落ちた。
とんとんとん、と3歩。
「真奈?」
呼びかけにも応えずにベッドに腰掛けると、起き上がった実紀を抱き寄せた。
首筋にぎゅっと鼻先を埋め、どこかしがみつくような強い腕の力。
丸まった背中にそっと手を回してなだめるようにゆっくりとさすってみる。
なんかあったのかな? 忙しいってボヤいてたし。
ぽんぽんとあやすように背中を叩いたら、ふいに真奈は身体を少し離して顔を上げた。
きれいに揃った赤茶色の前髪の奥の瞳はまだちょっとうつむいたまま。
おや?と思ったら、実紀の唇に重なった真奈の唇。
一瞬?
カチカチと秒針の音に気づいた時には唇は離れていた。
ふわりと真奈の右手がそっと実紀の頬に触れ、そのまま栗色の髪の中に滑り込む。
実紀は腕に置かれていた真奈の左手を取ると、指を絡めて繋いだ。
パタ。
腑抜けた音を立ててベッドを叩く二人の左手。
再び重なる唇。
真奈は2、3度軽くついばむと、薄く開いた実紀の唇に舌を差し入れた。
頭を抱く右手に力が入る。
舌を絡め取ると、ぎゅっと実紀の左手に力が入る。
真奈は右手をそっと首筋を辿って肩まで滑らせると、そのまま押し倒した。
チッ…チッ…。
チッ…チッ…。
「…みのり?」
真奈は少しだけ身体を起こして、ぼんやりと天井を見つめてまだ軽く息を弾ませている実紀の顔を覗き込んだ。
んーとぼやけた返事。
真奈は開けた実紀のシャツを直した。
「…ごめん。ちょっとやりすぎた」
そしたら、ぽんと頭に乗っかった実紀の右手。
ぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜ、
「んーん、大丈夫。なんか…そんなにヤなことあったんだなって思って」
と、ぽんぽんとあやす。
真奈はペタッと実紀の胸に頭を乗っけた。
「うん。…ちょっとね」
「そう…」
それだけ返して、実紀は真奈の髪を梳くように撫で始めた。
重たいかなと思って真奈は実紀を抱き寄せてごろんと転がるように横を向くと、実紀も逆らわずに横を向いてそのまま髪を撫で続ける。
実紀の胸に顔を埋めて、真奈は深くゆっくりと息を吐くと目を閉じた。
すっかり日は落ちて部屋の中は藍色の闇。
聞こえてくるのは秒針と二人の穏やかな息遣いだけ。
藍色の帳を落とした夜がそっと二人を包んでいった。