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後編:そして事件は解決した――

 ラプラス第3号機での『幸福をもたらすダイヤ』盗難事件のあった夜が明けた。太陽の陽が客船を照らし、気持ち良い朝を演出していた。しかし多くの客が不安を抱えたままそれぞれの客室で過ごしていた。



 廊下を歩いてまわる私設警備員も例外ではない。細心の注意を払いながら、船内をまわっていた。緊張してない者などいなかった。しかしとある警備員は朝早くから廊下にでて、どこかに向かおうとしている人間と出くわすことになった。



 少女だ。少女は泣いていた。そしてその手には割れてしまった『幸福をもたらすダイヤ』があった。



「き、きみ!? それは!?」

「ごめんなさい……ごめんなさい! ひっく……ごめんなさいぃぃい」



 少女は船長室へ案内された。そこには彼女の憧れるララァ・メイスンと普段は秘書をしているカリファ・ランデンバーグがいた。



「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 私、これをコッソリ盗んで、後でコッソリ返して、ララァ様を驚かそうと思ってしまって……そしたらダイヤを割ってしまって、本当にごめんなさい!! うぅぅうぅぅううぅぅぅぅ!!」



 厳しい顔を見せていたララァはその表情を和らげると、少女の背中をさすってみせた。カリファも同じく表情を柔らかいものに変えて、自白した少女とそれを許すララァの光景を優しく見守った。


「あなた、ダイヤはフツー割れたりしないものよ?」

「ふぇ?」

「いいのよ。出来心は誰にでもあるわ。でも、もしかしたら貴女はもっと冷静にならなくちゃいけないのかもしれない。あのね、それはダイヤモンドなんかじゃないの。ただのガラスで作った偽物よ」

「ええ!?」



 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった彼女はララァを仰ぎ見た。



「実はオークションで落札が決まった途端にその発表をしようと思っていたの。まぁ、あんなことが起きちゃって、その計画も台無しになったのだけどね……」

「あの、私、私は……」

「大丈夫よ。このことは不問にするわ。どこか会場の適当なとこに落ちていて、警備員が拾ったことにしてあげる!」

「い、い、いいのですか!?」

「ええ、こんなことで訴えるなんて馬鹿馬鹿しいもの。ところで1ついい?」

「は、はい!」

「貴女がこのレプリカを盗んだ時、司会者の男はまったく反応しなかった?」

「え、ええ……なんか、どこか、遠くの誰かに拳銃を向けていたから……」

「結構よ。そっか、あの“探偵さん”の言ったことが真実味を帯びてきたわ……」

「あ、あの、本当に私許しても……」

「許すって言っているじゃない! ねぇ、それより貴女どこの学生さん? 今度特別に私たちの職場を案内するわ。見学にいらっしゃい! アルバイトの仕事を与えてあげてもいいわよ? いいでしょ? カリファさん?」

「ええ、市長が言われるのでしたら」

「ほ、本当ですかああああああ!?」



 出来心で罪を犯した筈のアリー・ランディは寛大なメイスン市長の観心によって、思わぬチャンスを得た。そしてもう一つの真実が明らかとなった。



 これは怪盗などという目的で行われた犯罪計画でなかったのだ――




 マリアーノ港が見えかかった時、ジーノ・パチーノは船長室にいた。そこでララァ・メイスンとの挨拶を交わしていた。



「申し訳なかったわ。あなたのタレント活動に支障がきたなければと思います」

「いえいえ! とんでもないです! 市長こそ大変でしょう……可能な限り、テレビで擁護致しますよ!」

「そんなことしなくても結構ですよ。本当はこんな時にこんな物を渡したくはないけど、気持ちとしてうけとってください」

「ああ! 申し訳ない! ありがたく頂戴致します!」

「来年もお願いしますね」

「いえいえ! とんでもない! 早く泥棒が捕まることを祈ります!」

「泥棒ならでてきたわよ?」

「え!? そうなのですか!?」

「ええ、でも不問にしたわ。私を驚かしたかっただけらしいし」

「それはラッキーでしたね。私は全然気づきませんでしたわ!」

「自衛に必死だったから?」

「え? ええ、そうですね……はい」

「それで私は気になることがあるの。今朝ゴムボートが一隻なくなったらしいの」

「誰かが使おうとして流しちゃったのでは?」

「それとね、サム・キャッシュという男性記者さんがあの件より行方不明になってしまったみたいでね、どうも嫌な予感がして……それで彼の手帳から貴方と船内で会談する予定が記入されていたとかで……」

「市長」

「何?」

「それは全て推測でしょう? 私はサム・ナンタラなんて記者を知りません。私のことを取材しようとしていただけなのでは? 昨晩はあれだけショックな状況でした。恐怖心が勝ってゴムボートで逃げようとしたのかもしれませんよ?」

「随分、本格的な推理ね」

「来年、探偵役ドラマで主演を務める予定ですから! ははっ!」



 ジーノは一連の会話を終えるとそそくさと船長室を出ていった。彼には本物のダイヤを渡してしまったが、そこに何の疑いも持たなかったのは幸いであった。





 やがてラプラス第3号機はマリアーノ港に到着した。ジーノは待機しているリムジンに乗りこみ、そのままマリアーノ市より北上して山間部地方まで行った。そして山小屋の中へと入った。



 山小屋のなかにいたのは手品師のリック・アルバニアだった。



「おーう、おつかれ様! コレ報酬やで! 受け取れや!」

「ありがとうございます。偽ダイヤはどうなりましたか?」

「ああ、なんかやった奴が素直に渡しにきたとか? まぁ、ええやろ。どのみちアイツは始末できたからな。始末したんやろ?」

「ええ、おおせのように。発見されなければ幸いですね」

「まぁ、その時はその時、またいらん奴がでてきた時はオタクに頼むしかないからな。持ちつ持たれつや」

「なるべく持ちたくはないですけどね。では長くいても仕方ないので。僕はこれで」



 リックが小屋を出ようとしたところ、年配の刑事に身体を抑え込まれ、そのまま手錠をかけられた。続けざまに地元警察の5~6人が青年刑事と共に小屋の中へと入っていった。



「な! なんや! おまえらは!?」



 咄嗟に拳銃をとりだすジーノ、その時点で彼の罪状は確定してしまった。



「ジーノ・パチーノ、サム・キャッシュへの脅迫及び殺害の主犯、また警察への威嚇行為をしたとして逮捕する」



 ジョンは怪盗Xならぬ悪魔Xを捕らえることに成功した。



「なんでや! 俺が何したって言うんや!」



 悪魔は自分の悪業を認めようとはしなかった。



 ジョンはジーノのポケットに手を入れてダイヤのケースを取り出した。そしてその中に仕組まれた盗聴器を取り出してみせた。



「すべてこの中に収録してあるぞ。話し相手はアルクファミリー傘下組織『シローネ会』のメンバー“リッキー・サルバーニ”であることも調査済みだ。あがくのは止せ。文句があるなら取調室で伺おう!」



 既に4人の男に差し押さえられたジーノはなす術がなかった。彼の嗚咽がただ山木屋の中で虚しく響いた――




 ジーノはサムにスキャンダルを撮られていた。10人以上の愛人は勿論、麻薬売買の関与やマフィアとの癒着まで押さえられていた。この事実を知った彼はサムと是非話がしたいと、マフィアのメンバーを介して交渉をおこなった。そこでとんだ大金の要求がサム陣営よりあったのだと言う。元々サムの会社はサム単独でやっているものであり、彼を始末さえすれば事は収束する。



 ジーノは海上での暗殺計画を思いつく。できれば警察の介入も望ましくない。彼は思い描くように下準備をすすめた。主催者は自分でなく毎年パーティを開催しているララァ・メイスン氏、彼はアドバイザーとして数々の不自然な設定を盛り込んだ。無論これは匿名として要望した主も彼であることが明白として。



 オークション当日、彼はサムと面と向かうことはなかった。替わりに監視カメラに映らない会場の一角で銃口を向け続けたのだ。そしてあの停電修復後、彼はトドメを刺すフリをして彼を殺害する現場まで“威嚇誘導”を行う。誘導のまま監視カメラに映らないスペースに逃げた彼はリック・アルバニアことリッキー・サルバーニに撲殺されて海に棄てられた。



 おそらくだがそのなかでも誤算はあった。ララァが偽物のダイヤを用意したこと、そしてその偽ダイヤをまさか盗む人間が現れたこと等。それでも計画を実行したのは明らかにサムに対する彼の悪辣な執念そのものであり、これが完全なる悪意に満ち溢れた犯罪であることを物語っているからだ。




 化けの剥がれたスーパースターの話題で連日テレビは大騒ぎした。




 ラプラス市のとあるラーメン屋、探偵たちと刑事たちが集まっていた。



「アンタ、ほんとうに何者なのだ? 俺達じゃあまるでわからなかった……」



 イザベラはラーメンをすすり終えると、鞄より警察手帳をみせた。しかしそれはジョンたちのものと明らかに違っていた――



「公安です。本名は教えられませんわ。パチーノは我々も目をつけていました。あなたの親友を救えなかったことは申し訳なく思っています」



 すぐにイザベラは警察手帳を仕舞った。驚くジョンだったが、そんな彼に対して彼女たちはただ微笑みを返すだけだった。「ご健闘を祈りますわ」その言葉だけが彼の心に響き、あっさりとジョンたちの前から姿を消してしまった――



「あのオカマ君まで公安だったとは……世の中わからないものですな」

「ヴィンさん」

「何ですか?」

「俺、この仕事やっていけるかなぁ……」



 ヴィンは微笑み、ジョンの手を引いた。



「いきましょう。ウジウジしている暇はありませんよ。もうアルクファミリーとの対決が待っているじゃないですか……!」



 彼らの次なる任務は既にはじまっていた――

∀・)読了また推理に挑戦していただいた皆様、ありがとうございました!!ホントにしょうもないレベルでいて、めちゃくちゃ難しい難題を提供させていただきましたが、ちょっとでも本企画作品を楽しんでいただけたら嬉しく思います。このあとこの作品とジャンルは違いますが、長期連載作品『SHINKIROU THE SHINIGAMI』の連載を開始致します。是非そちらもチェックして頂ければ嬉しく思います。今後とも仲良くさせていただければこれまた嬉しいことですので、何卒どうか宜しくです。イデッチでした☆

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