異動
拙い文章ですが、よろしくお願いします
「そんなに緊張するなって。心配ねぇさ」
パトカーの運転席から、中年の巡査が後部座席の女に声をかける。
「緊張してない。というより、がっかりだわ」
女はタバコの煙をくゆらせながらぶっきらぼうに答える。
「なんでだ?大都市の警察署にお勤めできるってのに、何が不満なんだ、ねえちゃん」
「本庁から異動になったからよ、馬鹿。私からしてみればそこなんて田舎みたいなものよ」
中年の巡査はふざけるなと愚痴をこぼしてから、再びフロントガラスに映る街の景色を見つめる。
女は「ジョージ・チャルチ」と書かれた自分の捜査官証を訝しげに見ていた。チャルチにとって、本庁配属直後に撮られた自分の顔写真を貼ってある捜査官証を見るのは屈辱極まりなかった。屈託のない笑みが、今の没落した自分の内を見透かしているような気がして仕方がなかったからだ。
パトカーは到頭『バルシアタウン』に入った。
無数にそびえたつガラス張りの高層ビルが、後ろへと流れていく。
チャルチは急ブレーキをする都度、巡査に向かって舌打ちをかました。巡査はその度、申し訳なさそうな顔をして無線機をいじっていた。
しばらく走ると、先ほどの都心部とはかけ離れたスラム街に入った。
レンガ造りの崩れかけた住宅が立ち並び、道中にはドラム缶でたき火を楽しんでいる者や、貧弱な商品をビニールシートに並べ、乞食じみた商売をしている奴もいた。
そして、何よりもチャルチが気になったのは、低層住宅にかけてあった『脱法魔術道具販売』というトタン板の看板だった。
チャルチは今すぐパトカーを降りて、トタン板を粉砕したかったが、実行すんでのところで抑え、冷静に構えた。
パトカーが信号に差し掛かったところで、急に止まった。信号は、発進を意味する青なのに、パトカーは一向に発進しようとしない。
不審に思ったチャルチは、運転席の隙間から前方の様子を伺う。
すると、そこにはスキンヘッドで革ジャンを羽織った男が二人ほど笑みを浮かべながら立っていた。