春の訪れ。
春陽の提案は、こういうものであった。
一つ。冬の寒さや雪を利用した遊びを作り、冬を楽しむということ。
二つ。冬でも育てることのできる作物を発見または開発し、冬ならではの食を楽しむということ。
三つ。春夏秋冬、どの季節も平等に愛し、全ての必要性について考えるということ。
四つ。一年中、笑顔の絶えない国になるよう、みんなで努力をするということ。
どれも、冬華のことを想う、春陽らしい提案であった。
わがままとは言うけれど、彼女の私欲などどこにも見えない、優しい提案。人々に、反対する理由などなかった。
冬を楽しむというのは新しい考えであり、魅力的な考えでもあったからだろう。
ルール違反は絶対に許さないとする鈴秋も、その提案自体は何に触れるでもないので、素直に感心しているようだった。
冬華を苦しめるもの、その根本をなくしてしまおう。
そうして、冬華が笑って塔を降りられる、冬華が笑顔で塔に昇れる、そんな国にするのだ。
春の景色を見せることは、今後もできないだろう。彼女に桜の花を見せたのは、春陽の悪足掻きのようなものであった。
しかしそれでも、季節は冬のままであったとしても、笑顔に溢れる国の姿を見せることはできる。
冬華が笑って人々が笑えば、きっとまた笑顔は花のように咲き誇り、これからも冬華は花を慈しむことができよう。
そうしたら、そうしたら……――
悩みや悲しみの原因が少なからず減ることになるだろうから、冬華の負担もそれと同時に減ることだろう。
笑顔に囲まれながら、嬉しそうな表情で塔を降りていく冬華を見て、春陽は満足そうに笑った。
冬を司る女王、冬華が塔を降りた。そして春を司る女王、春陽が塔の上にいる。
例年よりいくらか遅れてしまったけれど、春が訪れるのであった。