重なり合う冬と春の奇跡。
騒ぎが耳に入り、外に出てみると、そこに広がっていた景色に夏月は驚く。
「外に出てみろ。鈴、早くっ!」
急かされるままに鈴秋も外に出、夏月と同じ表情を浮かべた。
驚き。戸惑い。そして、感動――。
「何が、起こっているの……?」
驚きのあまりか、少し掠れた声で鈴秋は呟いた。
「とにかく、城へ行ってみよう。そうしたら、何かわかるだろ」
寒さなど気にならないくらいの興奮に、目を輝かせた夏月は、鈴秋の背中を軽く叩くと走り出した。
立ち尽くしていた鈴秋も、夏月に続いて雪の中を走り出した。
「冬華! 春陽! 二人ともいるのか?」
塔に着くと、そこにいると思われる二人に、夏月は声をかける。
周囲の人々も夏を司る女王と、続いて秋を司る女王が訪れたのに気付くと、左右に分かれて道を開いた。
「二人で塔の上にいるというの? 気候が狂ってしまうのを避けるため、二人以上の女王が同時に塔の上にいることは、許されないことのはずでしょ」
信じられないとでもいうように、鈴秋は言う。自分への呟きか、冬華と春陽への問いか。どちらとも取れない声量と言い方で。
ルールに厳重な彼女にとって、それに逆らうことは簡単に受け入れられることではなかったのだ。
「だけれど、綺麗な景色だとは思いませんか? 私や冬華が望んでいたもの、そしてこれこそが、国のあるべき形なのではないかとすら、私は考えるのです」
窓から顔を出し、堂々とした態度で春陽は言い放った。
季節を妨げ、同時に二つの季節を重ね。本来ならば国民に責め立てられ、もう許されることのない禁忌を犯したというのに、春陽にその意識は全くないようだった。
否。彼女は罪であることを理解しているからこそ、それを定めた法自体を、改変してしまおうと考えているのだ。
傲慢も強欲も見せたことのない彼女の、大きな覚悟を持ったわがままであった。
「三カ月ずつを四人で住む。滞りなく季節を廻らせるために、それは必要な決まり、そしてだれもが知る基本的で常識的な決まりです。しかしそのことが、私と夏月さんを、夏月さんと鈴秋さんを、鈴秋さんと冬華を、冬華と私を遠ざけます。触れ合うことすらも、阻まれてしまうのです……なぜ……疑問に思ったことはありませんか?」
数分のうちに花開いた桜の、花びらが散っていく。
雪と重なり舞い降りる、薄紅色と白色の輝きは、塔を見上げる人々を導く光へとなり得た。
その美に魅せられたのは鈴秋とて例外ではなく、何も言えずにただ春陽の次の言葉を待つ。
「夏月さんと冬華の負担は大きく、冬華には季節を楽しむ暇さえないことも、同じ立場にある私たちは知っていましょう。なのに、目の前で苦しんでいる友がいると言うのに、なぜ見捨てることなどできましょうか。私は、冬華を苦しめる決まりならば、なんの躊躇いもなく破ります。何度でも、ね」
自らの罪を正当化しているだけだ。
語りながらも卑屈になる春陽に、堂々といさせたのは他でもない冬華の存在であった。
後ろで春陽のことを静かに見つめる冬華の瞳には、光が満ち溢れていた。そのことが、振り向かなくてもわかった。
だから、そんな彼女のために、春陽は強くありたかったのだ。