表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

訪れない春。

 ごめんなさい。

 私と冬華のわがままのために、多くの人が苦しんでいる。

 このまま冬が終わらなければ、いずれ――。

 こんなことを考えても、無駄だってわかってはいる。

 けれど、考えずになんていられなかった。

 聞きたくない。そう思っていても、みんなの声は耳に入ってきてしまうんだもの。


 冬華。あなたの願いを、私は叶えてあげたいの。

 あなたもきっと、そこで苦しんでいるのでしょう。

 塔にいるあなたには、隠れている私よりもずっと、みんなの声が直に聞こえてくる。私よりもずっと、その分だけずっと、苦しむことにもなってしまうのでしょう。

 それでもあなたは願った。願いを、持ってくれた。

 だから全て私のせいにして、あなたはあなたの望むものを待っていて。



 冬が終わったら春になる。そして春は夏になり、夏は秋になり、秋は冬になる。

 そうしてまた、新しい一年を繰り返していく。

 どの季節にも必ず終わりは訪れる。

 冬の女王。春の女王。夏の女王。秋の女王。四人で、十二カ月をわけて、三カ月ずつ塔に住む。

 それは決まり。

 乱されることはなく、決して乱されることなど許されない決まり。

 それくらいのことは当の女王が、他のだれよりも理解している。

「みんな、ごめんなさい」

 何度目かわからない、だれに向けられているのかもわからないような謝罪を、私は吐き出した。

 春が訪れないことにより、様々なところに影響が出ている。

 私だって、だれかを困らせたいわけじゃない。意地悪をしたくて、こうして隠れているわけじゃないの。

 冬眠をしたきり起きることができずに、動物たちは苦しみの声を挙げている。蓄えを失い痩せ細り、そのまま目覚めなくなってしまうだろう。

 雪の中埋もれた植物たちは、まだ春を待ってくれているのだろうか。

 このままだと、春が訪れないまま夏になってしまう。

 私が塔へ行かず、冬華が塔を動かないままだと、夏月さんはどうするだろう。

 彼女も私と同じように、どこかへ隠れてしまう?

 いいや。夏月さんはそこまで弱い人じゃないから、冬華を無理にでも塔から連れ出すかもしれない。

 そうしたら、冬華はまた、悲しいままで役目を終えてしまう……。

 なんで。なんでなの。

 私はただ、冬華の願いを叶えてあげたいだけなのに。

 なんで。なんでなの。

 冬華はただ、街の賑わいを見たいだけなのに。

 私が、夏月さんが、鈴秋さんが。当たり前のように見ていた景色を、冬華は知らない。

 一番望んでいるのは冬華なのに、冬華だけが知らない。

 交替するときの、冬華のあの悲しげな表情を見たくなくて、それで、私は。私たちは……。

 逃げているのは私の方なの?

 望んでいるのは、本当に冬華なの?



 冬華の気持ちを利用して、私が逃げているみたいで、それが嫌で堪らなかった。

 もう春でないといけないのに、積もり続ける外の雪は、私の心に自己嫌悪をも積もらせていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ