訪れない春。
ごめんなさい。
私と冬華のわがままのために、多くの人が苦しんでいる。
このまま冬が終わらなければ、いずれ――。
こんなことを考えても、無駄だってわかってはいる。
けれど、考えずになんていられなかった。
聞きたくない。そう思っていても、みんなの声は耳に入ってきてしまうんだもの。
冬華。あなたの願いを、私は叶えてあげたいの。
あなたもきっと、そこで苦しんでいるのでしょう。
塔にいるあなたには、隠れている私よりもずっと、みんなの声が直に聞こえてくる。私よりもずっと、その分だけずっと、苦しむことにもなってしまうのでしょう。
それでもあなたは願った。願いを、持ってくれた。
だから全て私のせいにして、あなたはあなたの望むものを待っていて。
冬が終わったら春になる。そして春は夏になり、夏は秋になり、秋は冬になる。
そうしてまた、新しい一年を繰り返していく。
どの季節にも必ず終わりは訪れる。
冬の女王。春の女王。夏の女王。秋の女王。四人で、十二カ月をわけて、三カ月ずつ塔に住む。
それは決まり。
乱されることはなく、決して乱されることなど許されない決まり。
それくらいのことは当の女王が、他のだれよりも理解している。
「みんな、ごめんなさい」
何度目かわからない、だれに向けられているのかもわからないような謝罪を、私は吐き出した。
春が訪れないことにより、様々なところに影響が出ている。
私だって、だれかを困らせたいわけじゃない。意地悪をしたくて、こうして隠れているわけじゃないの。
冬眠をしたきり起きることができずに、動物たちは苦しみの声を挙げている。蓄えを失い痩せ細り、そのまま目覚めなくなってしまうだろう。
雪の中埋もれた植物たちは、まだ春を待ってくれているのだろうか。
このままだと、春が訪れないまま夏になってしまう。
私が塔へ行かず、冬華が塔を動かないままだと、夏月さんはどうするだろう。
彼女も私と同じように、どこかへ隠れてしまう?
いいや。夏月さんはそこまで弱い人じゃないから、冬華を無理にでも塔から連れ出すかもしれない。
そうしたら、冬華はまた、悲しいままで役目を終えてしまう……。
なんで。なんでなの。
私はただ、冬華の願いを叶えてあげたいだけなのに。
なんで。なんでなの。
冬華はただ、街の賑わいを見たいだけなのに。
私が、夏月さんが、鈴秋さんが。当たり前のように見ていた景色を、冬華は知らない。
一番望んでいるのは冬華なのに、冬華だけが知らない。
交替するときの、冬華のあの悲しげな表情を見たくなくて、それで、私は。私たちは……。
逃げているのは私の方なの?
望んでいるのは、本当に冬華なの?
冬華の気持ちを利用して、私が逃げているみたいで、それが嫌で堪らなかった。
もう春でないといけないのに、積もり続ける外の雪は、私の心に自己嫌悪をも積もらせていった。