終わらない冬。
少女は、窓の外の景色を見て、溜め息を吐いた。
白い髪と白い肌を持つ少女だった。瞳は青く澄んだ色で、白い肌の中で美しく輝く。
可憐で儚げで、どこか悲しげな印象を持たせる彼女。
ひどく大人びているけれど、その顔には、まだ幼さを残していた。
少女は冬を司る女王である。
この国には、春・夏・秋・冬、四つの季節があり、それぞれを司る女王がいた。
四人は順番に三カ月ずつ塔に住み、季節を告げるのであった。
そして、次の季節が訪れる頃になると、次の女王と交替する。
そうすることにより、毎年季節は廻ってきたのだ。
しかしどうしたわけか、今年は冬の女王が塔を離れないのだという。
これ以上は待っていられれない。なんとしてでも冬の女王と春の女王を交替させなければいけない。
どのようにして冬の女王に塔を離れてもらうか、夏の女王と秋の女王が緊急会議を開いた。
「寒いよ。もうとっくに春になっていないといけないのに、冬華ったら、どうしたの?」
困ったように呟く少女。
普段は茶色の髪が明るく楽しげに跳ねているのだが、彼女の気分に沿うように、心なしか下を向いているように見える。
燃えるように赤い瞳は、彼女の元から持つ元気な印象の中に、困惑の色を映しているのであった。
彼女は、夏を司る女王だ。
そして彼女の言う冬華というのは、冬の女王の名前なのであった。
「冬華ぁ!」
「うるさい。夏月、落ち着きなさい」
冬華の名を叫び急に立ち上がったものだから、それを隣に座る女性が制する。
艶やかな黒髪を持つ、大人の魅力を持った女性であった。
茜色の瞳は、赤に似ているけれど、赤とは違う。どこか落ち着いた印象を与える色だった。
彼女は、秋を司る女王。
夏月というのは、夏の女王の名前である。
「だって寒いんだもん。むしろ、鈴はなんでそんな落ち着いていられるの? 緊急事態なんだよっ?! もっと慌てなきゃ」
「緊急事態だからこそ、慌てるわけにはいかない。そうでしょう。それくらいのこと、夏月だってわかっているはず」
秋の女王、鈴の反論に、夏月は俯くことしかできなかった。
彼女の言葉の方が正しいのだと、夏月だって理解していたからだ。
鈴は、秋の女王の呼び名である。彼女は本当の名前を、鈴秋という。
しかし名の響きが男のようで嫌だからと、鈴と呼ばせているのであった。
「まずは、冬華がどうして塔から出ようとしないのか。その理由がわからないといけない」
とりあえずは夏月を落ち着かせると、鈴秋はそう言って考え込む。
考えたところで、その答えが出るはずもなかったのではあるが。
「あたしたちは冬華じゃないんだから、冬華が何を考えているかなんて、わからないよ。やっぱり、本人に聞くしかないだろ」
「夏月はもう少しだけでも、頭を使ったらどうなの? ただ、今回ばかりは、あなたの言うとおりかもしれない。……冬華が何を考えていて、どうして塔を離れないのかなんて、考えたってわからない。無理にでも塔へ突入して、冬華本人に聞くしかないのかしら」
良い案なんて浮かばなかった。
本人のところへ行くしかない。それを結論として実行に移そうとしていたが、鈴秋の冷静な心がさすがにそれは止める。
冬華に声は届いているはずだが、説得に挑んだ人はだれも、冬華の答えを得られなかったらしい。
それならば、他の季節を司る女王である自分たちが向かっては、逆効果になる可能性もあると考えたのだ。
「考えすぎなんだよ。本当は冬華のやつ、あたしたちがくるのを待っているのかもしれないだろ」
悩むのは性に合わないからと、行こうと騒ぐ夏月に、鈴秋は首を横に振る。
なんの言葉も発せず、ただ静かに首を横に振るのであった。
その仕草は、夏月のこの案を否定するだけでなく、諦めも含まれているようであった。
「春陽はどうしてんだろ。塔を出ない冬華も問題だが、塔へ行かない春陽も問題だ。二人とも、どうしちゃったんだよ」
今更になってことの重大さを認識したのか、夏月は大きな溜め息を零した。
そして夏月と鈴秋は顔を見合わせると、二人、ここにいない二人の女王の顔を思い浮かべた。