恐怖の…。
ホラー物が好きな僕はその手のものが放送される時期になると欠かさず録画撮りして見ている。
しかし、それがのちに怖い思いをするなどとは思いもしなかった。
ある日、いつもの様にホラー番組を見てからトイレに行こうとした。その時だがふと誰かに見られている気がした。
トイレで用を足した後も変わらない。
周りをキョロキョロ見て見たが、特に変わった様子はなく、首をかしげるしかなかった。
番組は途中までしか見ていなかったので、続きを見ることにした僕は今度は見ている時にも誰かの視線を感じた。
その時番組内ではこの世に恨みを持つ怨念の残留思念を読み取っているところだった。
「まさか…ね。」
僕はあまりこう言うのを信じているわけではない。だって目に見えないんだよ?それを一体どう信じろと言うのだろう…?
番組の続きを見始めた。
怨念の元を断ち切るため、1番強く感じる場所へ向かった一行。
僕はドキドキしながら見ていた。
その時、突然音声が聞こえなくなった。
どうやら間違って消音ボタンを押したらしい。そう思い消音ボタンを押してみるも音は聞こえてこない。おかしい…。今度は試しに音量ボタンを押してみる。
数字をどんどん大きくするも全く聞こえない。
と思ったら突然大音量で音が聞こえてきた。
「どうなってるんだ?」
僕は不思議でならなかった。
ホントに突然だったのだ。
その間も画面上は動いていく…。
聞こえなかった部分を再度巻き戻して見て見ると今度はちゃんと音声は入っていた。
気味が悪かった。
今までどんな怖い番組を見てもこういう事が起きたのは一度だってない。今回のはちょっとやばいやつか?
でも普通、こう言うのってきちんとお祓いをしてから放送するものじゃないのか?
それとも撮影から日にちが経ってる。テレビ情、撮影はひと月からふた月前にされてるから効果が弱くなっているのか?わからない…。
一瞬見るんじゃなかった…撮るんじゃなかったと後悔した。
それでもやはり怖いもの見たさが勝ってしまった。誰か他にいる時に一緒に見て貰えばいいのかもしれないが、あいにくと家族はみなこの手のは嫌がって見ない。となるとやはり一人で見ることになってしまう。
仕方がないので黙って続きを見ることに…。
番組内ではタレント達がキャーキャー言っている。僕には全くわからないのだが。それでも、背後に何かある気配だけはビシバシと伝わってくる。冷や汗をかいた。
「誰かいるのか?」
そう言って見ても何の返答もない。
今の所振り返る勇気はない。
顔をポリポリとかいて見て、ユックリと後ろを振り返った。そこにいたのは飼っている猫の姿だった。
「何だよ、脅かすなよ。」
ホッと胸を撫で下ろし、テレビ画面に向いた。
それでもやはり視線が痛い。
猫なんだから見るわけないや。などと変に納得していた僕は、もう振り返ることはしなくなった。それなのに後ろと言うより、天井が気になって仕方がない。霊感など持ってない僕がまさか…ねぇ。
今度も気のせいと思いながらもまた振り返った。するとそこにいたのは首だけ浮いていた打ち捨てられた女の顔だった。長い髪はだらりと垂れ、口元からは血を吐いている。
正直気持ち悪いなと思った。
それでも叫ぶことはしなかったので偉いと思いたい。と言うより、怖すぎてできなかったのが正解だ。
真っ青な顔のまま少しずつ後ずさりを始めていた。怖い、怖い、怖い。
真っ先に思ったのはこんな時どうしたら良いのかと言う事。
プロでもなんでもなく、お祓いの仕方も分からなかったので、ただ逃げることしか思い浮かばなかった。その時、家族がこちらに歩いてくる足音がする。ヤバイ。
来るな!頼むから来ないでくれ。
そう願ったが、その願いは届かなかった。
「ねぇ〜、どうかしたの?なんか変だよ?」「へっ、変てなんだよ。気のせいだよ、気のせい。」「あっそっ、なら良いんだけどな。にしてもよくそんな番組見れるね〜。怖くないの?」「へ?だってよ、これみんな作りもんだろ?怖いわけないだろ。」「作り物…って、これみんな体験したものを忠実に再現したドラマだよ。怖くない方が変だって。」「そっかぁ?僕は別に…。」
喋りながら近づいて来る子供にとっさに叫んだ。「来るな!」っと。
子供ははじめ何故僕が叫んだのか理解できず足音が近づいてきたが、再度叫ぶとピタリと足音が止まり、静かに離れていく…。
正直なところホッとした。子供にこれはきつい。僕もだが。
浮いている女性の目はこちらを見ているが、目の焦点はあっていなかった。それがなお不気味さに拍車をかけた。
その顔がフワリと動いたかと思うとこちらへと近づいてくる。
「ヒッ!?」
あまりの怖さに引きつりながら腰が抜けながら部屋から逃げようとした。
それでも女の頭は近づいてくる。
思わず両目をつぶった。
見なくて済むように。
しばらく目をつむったまま固まっていたが、もう良いだろうと思い目を開けて見た。視界に入ってきたのはさっきまでいた女性の首だ。どこにもいかずずっとここにいた事になる。
「うわっ、ウワーッ!!」
僕は怖くてたまらず大声で叫んでしまった。
その声にさすがに気づき家族が皆集まってくる。どうしようもなかった…。
はじめ見たのは子供だった。
「ギャーッ!!お、お化け〜!」
妻は叫ぶこともできずその場で固まっている。
家族をなんとか助けたかった僕は怖いのもあったのに必死で霊を挑発した。
「家族のところに行くな!どうせなら僕のところにしろ!」
その声に答えるように霊は僕の方へ近寄って行く…。
生々しい首が…首が…、僕はめまいが起きそうになったが、グッとこらえてその場から走り出した。そして霊を導くように家から出てある場所に向かった。
それはーー寺だ。
除霊を頼もうとしたのだ。
「早く払ってもらわないと。僕がやばい。」
寺に行っても見えない人にはなんのことだかわからないなんてこと考えてる余裕はなかった。
寺に着くと直ぐに本堂に向かった。この時間ならいるかもしれないという淡い期待を持っていた。そこには住職は確かにいた。そして私を見た後で私の後からついてくるものを見たようだ。目が固まっていた。
引きつった顔をしたまま直ぐにお経を唱え始めた。
僕は助かったぁ〜と思ったが、住職は真剣にお経を読み上げている。
その場に座り、祈った。
どうか成仏してほしいと…。
30分祈り続けようやく体が軽くなった気がした。住職も疲労していたが、落ち着いていた。
「大丈夫ですか?もうつきものは落ちましたよ。」「本当ですか?」「はい。もう安心です。」「よかったぁ〜。」
僕はへなへなとその場にしゃがみ込んで脱力していた。
そんなことがあって以降僕は怖い番組は見ないようになった。家族も当然見ない。
2度と同じことを繰り返さないためだ。
御守りだけは肌身離さず今も持っているが。