第1話
「リリィ様。貴方はさながら美の女神様「はい、次」
胸に手を当て自分で吐いた言葉に酔いしれる、どこぞの貴族のお坊ちゃん。私の目がどんどん冷めたものへと変わっていくのも御構い無し。まあ、元から冷めきった目をしてますが。
兎に角、さっきから来るのはこんな奴ばかり。はぁ、と溜め息を溢せば隣に座る父と母は顔を見合わせ困った顔をする。
今私は広間にて、未来のお婿さん候補たちと謁見しているところである。正直椅子に長い間座りすぎてお尻も痺れて来たし、靴も窮屈だから脱ぎたいし、もういい加減やめたい。靴が窮屈、別に駄洒落のつもりはないから、そこんとこよろしくね。
「お初にお目にかかります、私、ノア・オデットと申します。」
お、今までで、一番イケメンだ。黒いサラサラの髪、瞳は黄色。身長は高めで程よく筋肉質。
見た目だけいい人なんて、候補の中にも沢山いるわ。まあ、見た目がいいに越したことはないけどね。
「あなた様を知った時からお慕い申し上げておりました。」
私の何を知ってると言うのだろうか。頭を垂れる目の前の、イケメンに沸々と怒りが沸く。ノア・オデット。オデット国の王子ね。オデット国と言えば、緑豊かな広大な土地を持つが、武力に欠ける国のはず。ふぅん、なるほどね。この国を味方につけたいわけだ。
私は手を払う。その動作を見た執事は咳払いをした。
「本日の謁見はこれまでとします、また明日に」
オデット国の王子は面を上げ何とも言えない顔をして、踵を返し去っていった。
関係ないわ。私はふん、と鼻を鳴らす。
私の肩書きや見てくれだけしか見ない奴等なんて、いらない。…男なんて皆穢いわ。
「リリィ、お前が思う相手はできたか?」
お父様が心配そうに訊ねて来る。
「お父様が憂いているのは私のこと?それともこの国のことかしら?」
「リリィ!」
多分どちらもだと思うけど。少しイライラをお父様にぶつけてしまい、お母様に咎められる。そのお母様を片手で制し、お父様は口を開く。
「そうだな、王としては、私も歳だからな。この国の跡取りを早く見つけたいと正直焦っておるよ。だが、父としてはお前が幸せになってくれるのが一番だと思っている。だからどちらかとは言えぬ。」
お父様はそう苦笑した。
「そうよね、知ってたわ。ごめんなさい。」
私は椅子から立ち上がり、お父様の首にしがみつく。それをお父様は驚きながらも受け入れる。世の中の男が皆お父様みたいになればいいのに。
私は正直男が嫌いだ。
物心ついたばかりの頃の私は、周りの男がちやほやしてくれることも満更ではなかった。だが、私が年頃になり、身体が発達し始めると周りの様子は変わっていった。幼い頃は「愛らしい」と、微笑ましげに見つめてきた瞳は、熱を帯始めた。私を性的な対象として見ているのだ。それに気がついたときに、自分の中で嫌悪感が生まれた。
「お父様、ごめんなさい。私…私それでももう耐えられません!」
お父様から離れた私はくるりと向きを変え、ドレスを摘まんで駆け出す。お父様とお母様の声が後ろから聞こえるが、気にせず走る。
もう我慢ならない!
私はとうとう決意した。
呪いをかけてもらうを。