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さかなの鱗

あの子の足跡を辿り歩けば剥がれる鱗がちくりと突き刺さる。

そしてわたしは、また一段とからまる鎖に支配されていく。

川沿いの細くぼんやりとした光に導かれたこの道はあの家へと続く道。

わたしの足に黒焦げになった生臭い鉛がひとつ、ふたつと、ペダルを踏むごとに重さは増し両足に絡みついてつきまとう。

あの家は、あの子の為に創られた家。

あの家の扉を開いた瞬間にあの子の足跡がいつもと変わらずただそこに佇んでいる。

ピンク色のドライヤー、タンスで無邪気に笑っている装飾されたスノーマン、あの子がプレゼントした青白くカビの生えた時計、あの子が塗っていたイチゴのボディクリーム、そしてわたしと共に歩きわたしを掻き消そうとするあの家の鍵。私がこの鍵を握りしめ、あの家の扉を開ける時どうしようもなく私が書きかえられていく。この鍵はあの子の為に渡された鍵。



第一の告白。

あの日、私がチョコレートを食べなかった理由。それは、あの子がハワイに行ったお土産だろうものだったから。ひと口かじった瞬間に嫌悪感に襲われ、腐ったふりをした。置き去りのままのハイビスカスの容器も悲しく咲いている。

第二の告白。

あの布団に横たわる瞬間に浮かんでくる、あのクリスマスの夜にあの子が着たサンタクロースの煌びやかな衣装を身に纏いこの布団に寝たのであろうと思うこと。私はこの布団に寝ることにもまた嫌悪感を感じ全てを洗い流して欲しかった。

第三の告白。

久しぶりに再会をしたあの夜にホワイトデーだからと言ってくれたヘアゴムはあの子にあげる為のものだったと思っていること。だから、私は一度も付けることが出来なかった。


ただ、誰のせいでもなく誰が悪いでもなく唯一消すことの出来ない変えることの出来ない世界が目の前に広がる。その世界の角度を少しでも傾けることが出来るのならば、この世界は煌々と光に満ちた美しい世界に変わるのであろうか。

傾き方を忘れた私は無情にも地団駄を踏み鳴らしその場から動けずにただただ遠くに伸びる光をぼんやりと見つめているだけである。



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