SCENE 06「リボルバー」
翔はC・リボルバーを握りしめ、コカトリスを睨みつける。
『あ、そうそう。これも忘れないでね』
マリナはどこからとも無く弾丸を取り出して翔に取り出した。弾丸は3つであり、それぞれに剣、銃、ドラゴンの顔が刻まれている。
「どっから出したんだ?それ」
『まあ今は映画の中だし、まだ私は半分だけ物理法則が通じるのよね。持ってたものはそのままだし』
翔は適当に相槌を打ちながら弾丸を受け取って、C・リボルバーの中に装填していく。コカトリスはそれが終わるとほぼ同時に口から白い光線を吐き出した。翔はそれをかわし、C・リボルバーの銃口をコカトリスに向ける。
(狙うのは、頭か、喉のあたりか……)
翔が撃鉄を起こして引き金に指をかけた時だった。
『違う違う。それはそうやって使うものじゃないの』
いきなりマリナが霧散し、それと同時に翔の腕が勝手に動き出す。C・リボルバーの銃口をコカトリスに向けていた翔の腕は、勝手に翔の脳天に向けた。
「おいおいおい!?どうなってんだよ!?自殺用アイテムか?!これ!」
『じれったいからあなたの腕を使わせてもらうわ。これはね、このまま頭をズガンと撃ちぬいて使うの。かっこいいでしょ?』
翔は必死に引き金を引くまいと力み、必死に指を留まらせるが、それよりもマリナの握る力が勝り、翔の指は引き金を引いた。しかし、翔の頭からは血の一滴も飛び出ず、代わりにフィルムが翔の頭から流れ出て翔の体を包み込む。腰のところにガンベルトが巻かれ、翔の腕はそこにC・リボルバーを装填する。そしてフィルムが翔の体を包み込み、一瞬繭のようになり、それが一気にはじけ飛ぶと、翔の姿が変わっていた。そこに立っていたのは、踊子のような衣装をまとったマリナだった。その傍らには、半透明の翔が浮かんでいる。
「なるほど。私がやるとこうなるのねー。参考になったわ」
『なあ、これってどういうことなんだ?』
「まあ私はあなたと契約を結んで体を共有することになったから、体の主導権を握ってる方の外見になるのねー。へえ。こりゃすごいわね」
マリナは体の隅々まで見渡す。マリナのまとっている衣装はかなり露出が激しく、メリハリのあるマリナのスタイルを際立たせている。そして太ももの付け根の部分には短剣が1本ずつ鞘に収まった状態で結びつけられている。マリナは太ももに指を這わせて一本ずつ、ゆっくりとナイフを引き抜いていく。
「まあ、これがあれば私は戦えるわ。さあ、ショータイムよ!」
コカトリスは一瞬何が起こったのか理解できなかったようだが、なりふり構わずに口から光線を乱射し始めた。マリナは踊るようなステップでそれを回避し、マリナの代わりに光線の当たった地面や雑草が次々と石化していく。しかしマリナは全く動じておらず、回避する合間に腰を振ったりするなどをして、むしろ楽しんでいるようにも見える。コカトリスはひと吠えすると、急降下してマリナに襲い掛かる。
「ごめんなさいね。あなたと遊んでる時間はあまりないの」
マリナは襲い掛かってきたコカトリスに向かって駆け出し、身をひるがえして飛び上がる。そしてコカトリスの背中に飛び乗り、持っていたナイフ2本でコカトリスの羽の付け根の部分を突き刺す。コカトリスは痛みのあまり暴れはじめ、マリナもそれに振り落とされないようにコカトリスの背中にしがみつく。やがて飛ぶ力を無くしたコカトリスは地面に向かってゆっくりと落ちていき、地面が近づいてきたところでマリナは背中から飛び降りて優雅に着地する。一方のコカトリスは飛ぶ力を無くして墜落し、地面の上を転がった。
「さあ、フィナーレよ」
華麗にマリナは着地し、乱れていた衣服を少し整えるとコカトリスに向けて走りだし、勢い良く跳び上がる。今度は空中で体勢を変え、今度は宙返りして逆立ちの姿勢で一度着地して今度は手の力で跳び上がり、再び宙返りして今度はコカトリスに向けて飛び蹴りを放つ。それと同時にマリナの履いている靴から刃が飛び出し、マリナは笑みを浮かべた
マリナの刃はコカトリスの脳天を貫き、コカトリスは鳴き声を上げる間もなく息絶え、ぐったりとうごかなくなった。
「ふい~。片付いたわね」
マリナは腰のガンベルトからC・リボルバーを引き抜いて再び眉間を打ち抜く。すると実体化していたマリナの体から閃光が放たれ、C・リボルバーを握りしめた翔と半透明のマリナに戻った。
『これがC・リボルバーの使い方よ。わかった?』
「ああ、まあな。あんまりやりたくないが」
翔はC・リボルバーをポケットに突っ込みため息をつく。マリナに促されてイマイチどうなったのか分からなかった“契約”だったが、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
『さてと、行きましょうか。あそこへ』
マリナは祭壇を指す。しかし、現在いる場所から祭壇までは歩くとかなりの時間がかかりそうだった。
「随分と掛かりそうだな」
『いいえ。ショートカットがあるの。丁度いいぴったしのがね』
そういうマリナの口元は少し歪んでいた。
数分後、翔は空を飛んでいた。比喩でも何でも無く、文字通り飛んでいるのである。その体は体中に宝石が散りばめられた豪華な外見の竜となっている。
『C・リボルバーの弾にはね、元々クラップフォンの時に使ってたデータを流用させてもらったの。源流は同じファンタジーモノだし』
脳内にマリナの声が響く。最初使った時はマリナが引き金を引いたため、その体の主人格はマリナのものだったが、今回は翔が勇気を振り絞って引き金を引いたため、翔が主人格である。
『そろそろ向こう側に着くわ。準備なさい』
翔が目を凝らすと、もう目と鼻の先まで祭壇が迫っている。翔は慌てて急ブレーキをかけてゆっくりと地上に降りる。翔の意思を読み取ったのか、竜となっていた翔の身体は元の人間の姿に戻り、脇に半透明のマリナが浮いている。
辿り着いた時、すでに時間は夜となっていて、明かりとして灯されている灯籠が神秘的な雰囲気を醸し出している。
「いらっしゃい。随分と早かったわね」
祭壇の中央の寝台に腰掛けたマキナは余裕を保っている。その姿は機械の人形ではなく、翔と出会った時と同じ少女の姿である。
『悪いけど、さっさと出してくれるかしら?』
「無理ね。アナタを外に出して私に何の得があるっていうの?」
マキナは髪をいじりながら野暮ったそうに答えた。
「翔に憑依して外での身体を手に入れたつもりでしょうけど、悪いけど外の身体を手に入れたからって外に出られるってわけじゃないの」
『そりゃそうでしょうね。アナタがこの世界を管理してるんだから』
「なら、どうするのが賢いのか、あなたなら理解できるわよね?」
マキナが指を鳴らすとマキナの体を無数のフィルムが覆い、デウス・エクス・マキナ姿に変わる。マキナは浮き上がって6枚の羽を輝かせた。『悪いけど、黙って死ぬつもりはないの。アナタがこの世界を管理しているのなら話は簡単。アナタを倒して私があなたを取り込めば外に出られるようになるわよね。翔、準備なさい』
マリナに言われ、翔はC・リボルバーを額に頭を当てて集中する。次に撃鉄を起こし、深呼吸をする。一度成功したからといってまだ翔の中では自分の頭を撃ち抜くという動作に馴れてはいなかった。
翔は覚悟を決めて引き金を引く。翔の頭の中を何かが駆け抜けるような感覚が襲い、マリナが霧散して消える。翔の頭の中を突き抜けたそれは、一本のフィルムとなって形を成し、翔の体を包み込む。翔は腰に出現したガンベルトにC・リボルバーを装填し、それに連なるようにフィルムが翔の体を守る鎧となっていく。
翔の体を包んだ鎧は以前のものとは大幅にデザインの異なる鎧で、腰ではなく背中に剣を背負っている。
『この姿ならアレに対抗できるはずよ。魔法もちょっとだけ使えるし。私が魔法関係を担当するから、あなたはただアレを倒すことに集中しなさい』
頭の中にマリナの声が響く。翔は背中から剣を引き抜いて構える。一方のデウス・エクス・マキナは余裕綽々と言った様子でその場に浮いている。
「どうしてもこの世界を出たいと言うのなら、かかってきなさい。さっさと終幕まで持って行きたいのよね」
デウス・エクス・マキナが指を鳴らすと翔の周囲の足場が浮き上がり、デウス・エクス・マキナを取り囲むような足場となった。
「さあ、いらっしゃい」
デウス・エクス・マキナは翔に向かって手招きをした。映画の世界での、最後の戦いの幕が上がった。