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懐かしい再会

光のトンネルをただ一人歩く。


『このトンネルを七日かけて歩くのだ。そうすれば出口に辿り着く』


その声を頼りに私はひたすら歩いた。


光の中を歩いている様な、不思議な感覚を覚えつつ、 「私は本当に死んでしまったのか……」

そんな言葉が口を吐く。


「娘達はこれから葬式やら何やらで大変になるだろうな」


申し訳なくなるけれど、どうする事もできない。

別れは現実に訪れたのだ。


一人一人、家族の顔を思い浮かべながらひたすら歩いた。



しばらく歩いていると、ふと自分の身なりが変わっている事に気が付いた。


「ああ、 旅装束をきちんと整えてくれたんだ……」


無論己のこの格好は初めてだが、見送る側にいた私は何度も目にしていた。


心の中で感謝をし、また歩き始めた。



七日かけて三途川に辿り着くと聞いた事がある。恐らくはこの先に三途川があるのだろう。


漠然とそんな事を頭に浮かべ、また生きていた頃の事を思い出した。


可愛い孫が生まれ、その後夫が亡くなり、寂しいながらも一人生きてきた。

孫の存在は大きく、会う度に元気を貰ったりした。


可愛い孫の成長を見られない未練。

まだまだ一緒に居たかったと改めて思う気持ちを胸に押し込め、出口を目指す。


振り返っても仕方がない。あの子達への思いを強く心に刻んだ。


どれ位歩いただろうか……。


向こうの方に出口の様な物が見えてきた。

歩みを進めると、ようやく光のトンネルから抜け出した。




目の前に大きな川が現れた。


川向こうには岸がある。



『いよいよ三途川に着いたな』


そんな声を聴き、ああやっぱりと思った。



「おーい! おーい!」


向こうで誰かが呼んでいる。よくよく見れば懐かしい夫ではないか。


「パパ!」


思わず駆け寄ったが、誰かに引き止められてしまった。


「待て待て。三途川を渡りたいか? なら六文銭を渡してもらおうか?」


一人の年寄りが手を差し出した。


お婆さんと言った所だろうか。見るからに恐ろしかったが、私は着物の袂からあるであろう六文銭を差し出した。


「今はこんな紙切れか。まあ仕方がない。いいか良く聞け。此方は此岸、この世だ。あちらが彼岸、 あの世だ。そこにある船に乗ってあちらに行くんだ。当然もう帰れない。まああんたの場合、寿命らしいから問題ないがね……」


そう言うとさっさと船に乗れと背中を押した。


岸辺に浮かぶ船に乗り、いよいよかと再度此岸とやらを目に焼き付け、彼岸へと向かった。



「やっと来たか。待ってたぞ」


「パパが呼んだの?」


「寿命だよ」


岸に着き、懐かしい夫と十五年振りに再会した。


「まだまだ待っていた人が居るぞ?」


夫の肩越しに目をやれば、そこには懐かしい顔が揃っているではないか。


「お父ちゃん、 お母ちゃん!」


「よく来たね。懐かしいよ……。ずっと会いたかった」


「私も会いたかったよ! お母ちゃん!」


手を握り合い、何十年振りの再会を果たした。



『懐かしい挨拶は後にして、 これからお前のこれまでの行いとこれからを決める為に、閻魔王の所へ行く。所謂裁判と申そうか。何、 心配する事はない。大体の行いは分かっているからな。それにお前には強い味方が居る」


突然の言葉に急に不安に駆られるた。


「大丈夫。あんたには私らが居る。娘達も手厚く弔ってくれたみたいだし、 心配はないよ。それに仏様もいらっしゃるからね」


母の言葉にいくらかホッとはしたが、裁判と聞けば恐らくない訳はない。

しかし見知った顔触れに、勇気をもらい私は母達に連れられ閻魔王に会いに行った。


あちらの世界では、単なる迷信かと思っていた事が、この身に降りかかるとは……。


そんな事を考えた。

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