十一話 その頃
なんか思いついた、あー、あの人出してなかったなーって。
なので急いで名前決めたけど、おかしくなりそう。
「あー、久しぶりの外だー!」
私、夏目雪乃は車に轢かれそうになっていたあの子を助けた。だがしかし! その車の運転手は重体になり、なんとなんと私が捕まってしまう羽目になったのだぁぁぁ!!
現場の車の異様な壊れ方と、その目撃情報で人間とは見られてないらしく、一か月監禁されていたのだ。
「さてと、あの子どうしてるのかなー」
神崎麻代花。
私の弟子であり、親から捨てられた子供。
その正体はただのアルビノだったから驚いたけど、普通にいい子だった。
親に虐待を受けているとかなんとか言ってて、たまに家に来てご飯を食べたりしている中で一回とある妙技を見せた。したら凄い剣幕で教えてくださいって言われたので断れなかった。
私の秘密がバレないのは良かったけど、何回教えてもやっぱり麻代花にはできなかった。
「ふぅ……よし!」
綺麗な空気を沢山吸い込んで麻代花の家に行く決心をする。
麻代花の今の親は外ではいい人なのに家の中では虐待するっていうから苦手意識が強く、前に会ったときは無意識で睨んでいたらしい。
「なにしようかなー」
驚くかな、それとも謝られるかな。いやいやおかえりが普通か。なんてワクワクしながら歩いていく。
そして、帰って家に誘って、パーティでもなんでもするんだ。
もしかして家についた瞬間にまた教えて! なんて言われるかも、まぁその時はまた一から教えてあげよう。
あ……そうだそうだ、たぶん周りが冷たい目で見てくるのは終始にやけてるのが原因なんだけど、楽しいこと考えたら直んないんだよね。
ピーンポーン、ピーンポーン。
おかしい、もう五回も鳴らしてるのに来ない。寝ているなら別だけど、あの子が夜に寝ないことは知ってる。
夜に外食でも食べに行ったのかとも考えたが、外にはあまり出れない体質なのでそれもない。
「どちら様ですか?」
考えているうちにインターホンから返答がきた。
「夏目雪乃です、麻代花さんはいらっしゃいますか?」
「すみませんが、人違いです」
「はい?」
「ここに麻代花なんて子はいませんし、あなたの事も知りません」
「え?」
「そこに書いてある名前見てます?」
「えっ……」
「人違いならいいですけど、いたずらでしたら警察、呼びますよ」
「すみませんでした!!」
嘘、引っ越してたんだ……。
そっか、私が捕まった後に騒ぎになるから引っ越したんだ。
家に帰ろう、あ……家賃貯まってるかなー。
そういえば今日のご飯もない、帰ってもどうしようか。
「ただいまー」
一人暮らしで誰もいないのについ癖で言ってしまうことってあるよね。
それで一人か……って思い出してちょっとテンションが下がる。
「ん、新聞」
ポストの中に詰まっていたものの中に新聞があった。
「あー、野球負けたかー」
大きく見出しに『野球、惨敗』と書いてあった、これまたちょっとテンション下がる。
「あ、こっちも新聞か」
その新聞には大きく見出しに、『少女死体遺棄』と書いてあった。物騒だなーと思いながら読んでみる。
ストレスによる白髪だらけの髪、虐待等による白い肌、暴力等による出血したかのような赤い目。
そして、少女のパーカーから神崎愛という名前らしい。と言うことが書いてあった。
「……嘘、でしょ?」
「神崎愛って……」
神崎愛。何回も聞いたことがある名前、麻代花から何回も。
その話の一部だが、神崎愛はいつも麻代花が着ているパーカーの持ち主で大好きな本物の親らしい。
つまり、そのパーカーは麻代花しか持ってはいけないもの。
新聞に載っている情報は少し向きが違えども、麻代花の事を書いている。
「なんで、死んでるのさ……」
「この山、近くの山。行くしかない!!」
急いで山に向かう、もう正体がばれてもいい。
誰にでも見せてやる、それほどまでに確かめたかった。
私はデパートの屋上駐車場に到着した。
そして……。
「変異!!」
目は紫色になり、背中からは翼が生え、尻尾がスボンを破って出てくる。
妖怪はこの世ではもういない、科学が進行した街には妖怪など非科学的なものは信じられてはいない。でも私は違う、妖怪ではなく、一部だけでもこの世で信じ続けられている生物。
神と同等、それ以上の龍、それが私の正体。
「待ってて、今いく!!」
「あ、人にバレたらどうしようか……」
でもそんなことはどうでもいい、麻代花に会わせてくれるなら何でも話そう、見せよう。もうその決心は出来ている。
「ここ、かな……?」
神社の近くの写真もあったので、ここの近くだと思う。にしても、寂れた神社だと思う。廃神社とでも言ったほうがいいだろう。
名前も崩れたりして読めない、ここの近くで発見されたらしい。
「何にもない、ここで麻代花が……」
「生憎、何にもないですわ」
「……誰」
誰もいないのに女の人の声、そして気配。神社と周りを見まわるけど、誰もいない。
「見回しても何もない……」
「ここは本当に何もない、えぇ、その通り」
「……」
「昔は妖怪を退治する巫女がいたというのに、今や妖怪の類は信じてももらえず、妖怪が消滅してしまった」
「誰だ、出てこい」
「龍姫イリス」
「なぜその名を、かなり昔の名前のはず」
「私が昔から貴女を知っているから、とでも言いましょうか」
「何の用だ」
「単刀直入に聞きますわ、ここにいた少女、知り合いでしょう?」
「だったら?」
「あの子には現在私たちが直面している脅威を排除してもらっています」
「麻代花は、生きてるの?」
「その麻代花とやらで合っているとは思いますが」
「でも、それはありえない」
ありえない、それは何故かと言えば簡単な事。死体が見つかっているのでもう麻代花はいない、悔しいけど死んでいるのだ。
昔だったらネクロマンサーという禁忌があったが、今では魔術の類も存在しない。
「あの子には私の為に動いてもらっているのだけれど、貴女も私の為に動いてくれる?」
「麻代花がお前の為に排除なんてしないし、お前とは一緒にいるわけがない!!」
「……なんでかしら?」
「麻代花はここで見つかり、死亡確認もされている」
「あらあら、もう死んでるとでも言いたそうな顔ね」
「……そう、麻代花は死んでいるから、まず動きもしない、だからお前の為には動けない」
「その前提条件は間違っているわよ?」
「前提条件?」
前提条件。麻代花が死んだ事?
ありえない、間違ってはいないはず。
もし生きてたとしても、あの女のために動く事はない。麻代花は表情を見て相手の性格などを把握し、そしてやっと接するから絶対にない。じゃあなんだ?
前提条件は麻代花が死んでいる事。
これが間違っているなら……もし麻代花が本当にあの女の為に動いているなら……。
「……麻代花は生きてるんだね」
「正解、そして貴女が知りたがっている居場所」
「なぜ私が知りたがっていると?」
「それは秘密、その少女の生きている種も」
「マジックの種位はいいでしょ?」
「そっちはあまり関係ないので教えて差し上げてもいいですわ」
「上から目線だね、さっさと教えてよ」
「死んだように見える、これで分かるでしょう」
「この世の中で幻術か、嘘だね、科学の前では幻は存在できない」
「私ならできますわ」
「胡散臭い」
「まぁ、どうでもいいですけれど、貴女は……」
「なにかな?」
「死ぬか、私の為に動くか、選びなさい」
そして空間が開き、金髪の女性が現れる。空気が重くなる。
殺意と妖気、そしてプレッシャー。
おそらくは古くからの妖怪、でもなぜ存在できるのかが不思議すぎる。
今時妖怪や霊、非科学的なものに恐怖を持つものはいない。肝試しやお化け屋敷もとっくの昔に消え失せた。
「龍姫イリスさん、どっちを選ぶ?」
「……っく」
どこか胡散臭い笑顔と丁寧な言葉使いからは想像もできないような殺意と妖気その口から出る言葉はそれ自体がプレッシャーを纏っている。
「もしもお前の為に動くなら麻代花の所に行けるのか?」
「貴方の働き次第」
「そう……なら言いなりになってあげてもいいよ」
「交渉成立ですわ、では明日の23時50分にまたここで会いましょう」
「わかったよ、じゃあね」
長いし意味分からないしで大変大変。
ここからどう行くのかなんて決まってない。
プロットなんか9話の時点で吹き飛んだ!!




