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04

主人公が大分残酷な策を使いますので、苦手な方は飛ばしてください。戦して勝つだけですので。

 入学して早三日。

 まだ授業どころか学習院での生活についてのオリエンテーションすら終わってすらいないのに、またも隣国リンダールのデンゼル公爵の命で、グルジア辺境伯を総大将に据えた軍が進撃を開始したという知らせが入った。

 しかも今度は私の領に向けてである。前回討ち取られた息子の弔い合戦でも気どるつもりか。

 学習院に公欠を貰い、慌てて軍議の行われているであろう貴族院へと出席した。


「自領の防衛に際して何か他にあるかね、カルディア下級女伯爵?」


 取り纏め役を務める貴族の厭味ったらしい口振りに少しだけ気分が萎える。私の着ている騎士服をそんなに揶揄したいのか。


「捕虜の遺体を下さい」


 前回の戦で生け捕った捕虜は全て処刑が決まった。

 捕虜の開放と引き換えに隣国から賠償金を取る筈だった停戦調停が破綻したのでこれ以上生かしておく理由がなくなった為だ。

 さてどうやって相手の士気を殺ごうか、座った眼で考えていた私の頭に、良案が浮かんだ。

 前世のどっかの国の大公が行った、串刺し死体を並べるという頭の可笑しい奇策をパクるのだ。


 捕虜の遺体を全て引き取った私は、自分の領地のギリギリ外側に杭を立てさせ、それに遺体を刺して並べておくことにした。

 もう一つ小細工として、それらの死体と杭の周りに深めの溝を掘らせ、油をたっぷり引かせておく。杭と死体にも掛けさせた。


「入学してすぐに戻ってくるなんて、お館様も運が悪いですね」


「全くだな、カルヴァン。うまく策がいったら早く帰って寝ようと思う」


「それにしても、お館様はよくもこんな残虐な手を思いつきますな。ある意味では親によく似ている」


「ふん。自領の民を絞りとるようなカラカラの頭で戦など出来るか。似てるわけ無いだろ」


 火矢を番えたカルヴァン、アジール、ギュンターが眼前の凄惨な光景に軽口を叩き合う。私の親が作り上げた極貧の生活はどうも領民の倫理観を粉々に壊してしまったらしい。

 私の平和な前世で培った倫理観も同時にどっかへ消えている。ふぅむ、まぁ敵にかける情けや容赦が無いだけだし、問題は無いだろう。


 今回の戦の戦場となるのは何処の国の所有地でもない不毛の地、バンディシア高原である。僅かな台地を除けばほとんど起伏のない砂礫の地面が広がる、そんな所だ。

 私が串刺し死体を並べたのは、その僅かな台地がある一角だった。台地にはこちら側からは登れるが、向こう側には切り立った崖となっていて高所を取れるという利点がある。


 長い道程を行軍してきた隣国の兵士たちは、呆然と捕虜五千人の無残な串刺し死体を眺めていた。知らせを受けて急ぎこの仕掛けを作って三日ほど。

 広い荒野に突然出現したご馳走に、烏と蝿がたかることたかること。

 そしてその向こう側、アークシアの軍勢はリンダールのそれの三倍を用意させてもらった。後方の殆どが鍬を持った農民であろうとも、黒い人の海は恐怖心を煽る。

 相手の士気は目に見えて落ちていた。

 耳を澄ますと相手の軍から揉める声が聞こえてくる。死体の中に知り合いか、友人か、それとも世話になった上官でもあったのだろう。やがて陣を崩して二部隊ほどが駆け寄ってきた。


「アークシアの者達よ、これはあまりに酷い!あまりに!」


「戦の始まる前に遺体を返してはくれぬか!人道にもとる行いであるぞ!」


 それに対してこちらから出たのは私一人。高台に上り一人立った私に、子供が何を、といぶかる相手軍を、嘲笑う為に手に持つ兜を翳した。前回討ち取った少将のものだ。


「侵略者が何を言う。そもそも、これらの捕虜を見捨てたのは貴様らだろう!」


 言って、兜を串刺し死体の中に投げ込み、素早く矢を放って割ってやる。三日練習した甲斐あって、上手いこといった。


「侵略者は人でなく理性なき獣!幾らでも烏の餌にしてくれるわ」


「なにを!」


 後ろに控えた自軍から、何頭か馬から台地へと駆け登ってやって来た。そこから悲鳴が幾つも上がっているのに、敵軍の目が引き付けられる。

 疾駆する馬からは縄が繋がれ、捕虜の中に何人かいた子供、少年兵たちがそれによって轢かれていた。


「こ、子供に何をっ」


「見捨てたのは貴様らだ!」


 手近な少年の首を切り落とす。ゴロリと転がったそれを、馬を引いてきた兵の一人がやはり串刺し死体をの中へ投げ捨てる。

 頭に血を上らせた相手部隊の兵は指揮官の制止も聞かずに突撃を開始した。


「カルヴァン、放て!」


 馬を引きながら命ずると、カルヴァン達は火矢を串刺し死体の中に打ち込んだ。油に引火してすぐさま燃え広がる炎に巻かれ、突っ込んできた兵達から悲鳴が上がる。

 騎馬兵は馬から投げ落とされ、歩兵は爆発的に燃え上がった炎で焼かれ、阿鼻叫喚の地獄絵図が完成したことに思わず笑ってしまった。


「あっはっはっ、上手く行ったぞ!騎士道がどうのと侵略者の癖して綺麗事を抜かすからそうなるんだ、強欲で理性無い醜い獣共め!」


 様子を見ていた後方の相手部隊に見えるよう、残った少年兵を高台の縁に立たせてやる。燃え盛る串刺し死体、暴れ回る人と馬の中に一人ずつ突き落とさせるのだ。もちろん矢が飛んでくれば少年兵を盾にするよう、実行する兵には言い含めてある。


 後は戦上手のローレンツォレル侯爵に任せておけば勝ち戦だろう。これほどまで士気を削がれた相手軍が炎を越えてここまで来たところで、弓に狙い撃ちされて終わりだ。




 戦の褒章として上級伯爵の位を国王陛下より直々に賜る事になった。なんでだ。

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