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02

 敵中央軍右陣を指揮していた少将を私が討ち取ってしまった。

 相手の名はグルジア辺境伯子息。戦場になった小平原の向こう、私のお隣さん領と国境を分かつ領地の主の跡取り息子であったそうだ。

 ついでにそれの周辺にいた、私の子領軍に囲まれて掃討された部隊は右陣の連絡兵を大量に含んでいたらしい。

 石銃隊が壊滅し、中央軍右陣は指揮系統がごっそり潰れてこれも壊滅状態に陥った。この二つによって敵軍は撤退を決行したらしい。

 つまり私は此度の戦を勝利させてしまったようなのだ。


 なんでそんな重要な役職のやつがあんな前線に出てきてるんだアホか!


 武勲への見返りとして下級伯爵位と、私の東西に細長い子爵領の東南に位置する王領の辺境地を新たな領地として賜った。報奨金は与えられた領地の開発費も含まれているとの事で、多めの五千万アルク。


 あっこれ私もしかして潰されかけているかもしれない?いやかもしれないではなくて確実にそうだ。


 与えられた辺境地は魔物の領域の森林地域である。王の直轄地として今まで封鎖していたその地を、金を与えたのだからどうにかしろと言われているのだ。

 後見人のテレジア侯爵にはこれ以上頼れない。テレジア家は領地を持たない法衣貴族家であるから、私……というかカルディア家を排除しこの地をテレジア家に押し付け、領地に縛り付ける事で中央でのテレジアの権力を弱めようとしているのだ。

 今まで通りにテレジア侯爵に代理領主を任せていたら、王都の貴族はこぞってテレジア侯爵を正当な領主にする為のはかりごとを始めるだろう。


 テレジア侯爵も同じ事に思い至ったのか、領主の裁可印を私に返却した。


「エリザ殿はもう十三歳になります。凖成人でございますれば」


 この国では十三歳で凖成人、十八歳で成人となる。

 裁可印の返却時としては確かに区切りはいい。普通の貴族の子息たちも親の余剰爵位を継いで少しずつ仕事をし始める時期だし。

 私に潰れられても、逆に頼られても困るテレジア侯爵は、最後に陪臣の三男以降等余っている人員を人出として大量に寄こし、王都に帰っていった。

 有り難い、が、それでも危機は逃れていない。全く大丈夫じゃない。


 何故ならば、私は前述の通りもうすぐ十三歳になる。貴族の子女は十三から十六歳迄の三年間、王都にある学習院に通うのが義務とされているのだ。十六歳から更に二年間、これは特に義務では無い上級学習院も存在するが、それに関しては私には縁の無い話であるとして。

 一応私は王宮にに領地の統治を理由に入学免除の嘆願書を送ったのだが、勿論帰ってきたのは素気無すげない不可の答えだった。

 他の子息、子女達も貴族の一員として仕事をしながら学習院に通うのだ。

 私一人例外としては認められないとの事だったが、親の庇護下で仕事という名のお手伝いをする奴等と私を躊躇い無く同等に扱うなんてね……溜息も出るというものだ。


 仕方ない。対応するしかないだろう。

 とはいえ人手として寄越された陪臣の息子達はどう使えるか分からないので自分で統治機構を整えるしかない。

 私は各村落の名主を呼び寄せた。


「諸事情により私は王都の学習院に通いながらこの地を一人で統治することになった。そこで、統治の為新たな政治体制を作る事にした」


 人口約五〜七百人の村が九つ。これが私の子爵領……じゃなかった、伯爵領内の現状である。

 流石はテレジア侯爵である。良くもあの状態から、たった十年で数千人以上も人口を増やしたものだ。領主の手元に金が出来た為、その領主である私が内政を失敗しさえしなければこれからも増加の一途を辿るだろう。


「諸君には庶民院を結成してもらいたい。まず各村落で成人以上を対象にした選挙を行い、三人を選出するんだ。その三人に加えて各名主を加えた四人で村の代表とする。週に一度以上代表は集まって村の状況や何が必要かを話し合え」


 選挙方法は初仕事としてこの名主達に決めてもらうとして、とりあえず村の状況を取り纏める組織が必要だ。


「月に一度名主諸君が集まって、各村で話したことを報告しあい、解決の必要な案件については解決案を出し、全村落での情報共有を行う。この話し合いには一人、侯爵からお借りした人員を書記として参加させる。だが、諸君等も話した案件、それに対する解決案、その全てを纏めてそれとは別に私に連絡するんだ」


 村毎に暫定的な半民主制を取り入れさせるのだ。これで増える人口に対しての柔軟性が増せばいいが。

 最終的な判断は私がする予定だが、名主達に負担させる部分は大きくなるだろう。前世の統治機構を参考にしてはいるが、時代に即しているとは言い辛いので、実際に動かせば問題は山のように出るだろうし。


「選挙は一年に一度、私が領地に戻れる春に行う。代表に選ばれた者には任期中は特別手当を出すが、不正に関しては厳しい罰を与える。お前たちもだ。欲を掻くなよ」


 それを防ぐ為に一人書記として参加させるつもりだが、どうなるかは定かではない。脅しのつもりで言ったが、名主達は一斉に首を振った。


「欲など、とんでもない事でございます。村の者達の声が殆ど直接に領主様の元へ届くようなものではありませんか」


「ああ。私はテレジア侯爵の陪臣の家で育った者共をまだ上手く使えはしないから、それでいいんだ。緊急の案件はお前たちで片付けられるようにしておきたい。そういった事は事後報告で構わない。対応が間違っていれば処罰を与えることもあるだろうが。手に余るようならば最速で私に伝えるように」


「ですが、その後見人の侯爵様から派遣された方々はどうするおつもりなのでしょうか?」


 村と私の間に立つ役割を彼等ではなく名主と、村で決めた代表にする。それでは一体彼等には何をさせるのか。


「テレジア侯爵様から頂いた人員は五十人程だ。彼らには学校を作らせ、児童の指導を行わせる」


「というと?」


「五歳から十歳までの村の子供に読み書きと計算、それから武芸を覚えさせる。労働力の低下に繋がるため一時的に税を減らすが、子供を学校に登校させない家庭の税は上げる。十歳以上の者も入学を許可するが、税は変えない」


 読み書きと計算は侯爵の寄越した人出に教えさせ、武芸の方は戦時以外に役に立たない領軍に教えさせる。


「ここは伯爵領になった。貰った金を元手にして民の資質を上げねばならない。私が学院から戻り次第広がった領地を開発せねばならないからな」


 詳しい事はこれから細々と決めるとして、とにかく識字率とインフラの整備で領内の水準を引き上げて豊かにしないと森になぞ構ってられない。

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