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 完全に王太子にしてやられたらしい。


 あからさまに暗躍しているという情報を撒かれていた。それに喰らいついて、高みの見物だと笑っていた私が馬鹿だ。

 そもそも、動きは見えていた──いや、表面の動きのみ見せつけられていだけか──のに、その目的は今でさえ、何処にあるかが不透明なままだ。

 向こうの手を読んだつもりで、こちらの情報網や手の内が読まれている。


 王太子が国家を揺るがしかねない手を打ってくるとは思っていなかった。そういった中途半端な信用や、印象、それらを逆手に取られた。

 やってくれる。


 狙いは私の孤立なんて稚拙なものではなかったらしい。よく考えれば当たり前だ。王太子にメリットが無い。

 『未熟』だから悪手を打ったのだと、そこで思考を停止させてしまったせいで後手に回っている。ヴァルトゥーラとカディーヤをデンゼルに向かわせたのは間違いだったようだ。


 王室からテレジア侯爵に王太子と私の政略婚──身分的な釣り合いから言えば、側への入室──を申し込まれたと言う事は、少なくとも国王は王太子側で動いている。

 それにヒロインとラージアスの婚約。王太子め、いつの間にリンダールを抱き込んでいた?

 婚約が認められたという事は、リンダールの上層部も今回の王太子の策に乗っている。

 さらに衝撃的だったのは、グレイスの魔法だ。何故グレイスが?あれを今公開したのにはどんな意味がある?魔法についてのアークシア王国の認識が、予想と大幅に食い違っている。


 テレジア侯爵が倒れた事にも王太子が手を回しているのか?それとも偶然か?

 偶然にしてはタイミングが良すぎる。私の婚約に関して、後見人が伏せているのであれば是も否も返す事が出来ない。前回の貴族院でローレンツォレル伯爵に次期後見を任すと表明していればなんとかなったのかもしれないが──いや、待て。

 ヒロインと婚約したのはザスティン家だ。という事は公爵も噛んでいたのか?仕組んだのは王太子か?それとも王家か?……っ、教会すらも絡んでいる可能性があるのか?


 誰が黒幕で、誰が王太子側なのか全く分からない。

 ローレンツォレル伯爵から宮中の動きとして報告されてもいない……まさか、伯爵が裏切った可能性もあるのか?


 思考が纏まらない。情報が圧倒的に足りない……っ!


 落ち着け。頭を冷やせエリザ・カルディア。

 王太子はとんだ曲者だった。冷静にならなければ勝てない。唯でさえ後手に回っている上、相手の最終的な狙いが不明瞭なままだ。

 打ってきた手だけが明確に見えているのに、その全てが悪手にしか見えなくて気味が悪い。手玉に取られて良いように転がされている気分だ。


 レイチェルの動きも、ザスティン公爵家とヒロインの婚姻準備によって抑えられている。いや、王太子が予想外の方向に大きく動いた今、彼女の策もかなり無駄になったに違い無い。彼女の狙いを訊き出して置かなかったのも痛い。これから先利用できるかすら……。


 取り巻いている状況も見えてこない上、敵味方の区別も、敵の狙いも分からない。どうやったら盤をひっくり返せる?


 王太子があのタイミングでヒロインに私の情報を公開したこと。

 得られた効果はヒロインと私の関係の決裂と、学習院内の私への評価を下げる事。ヒロインに関しては、外交問題には発展しないと思われる。王太子、或いは王家、最悪宮中全体がリンダール側と繋がっている事が分かっているのだから。

 つまり、あれは出来芝居だ。

 では狙いは学習院の生徒達の方か。私への悪印象を膨らませる──だが、それをどこに繋ぐのかが分からない。普通に考えれば、王家の一員に召し上げようとしている女に打つ手としては最悪手だ。


 くそ、打つ手が見つからない。

 完全に後手に回った!


 焦りに、掌が汗で滑る。考えろ。思考を最大限に絞らなければ自分が危ない。今どこに私は立っているんだ?崖の途切れる場所すら見えない。




 休日の空けた学習院は、その状況が一変していた。

 子供達から一斉に向けられる悪感情と好奇の目線。私を面白く思っていない貴族とその子女が今とばかりに燃料を注ぎ込んでいるらしい。

 狭い貴族社会は動くとなると恐るべき早さで動く。


 心情的には痛くも痒くもないが、王太子の狙い通り完全に孤立した訳だ。酷く不愉快で、ここから繋がるかもしれない次の手への不安と焦りが不必要に加速する。

 学友達が歯痒そうな表情で遠巻きに私に視線を送ってくる。レイチェルと同じように何らかの方法で動きを押さえつけられたか、この状況に従わなければ自分の家が漬け込まれるのか。

 その中にはユリアの姿も在る。顔を真っ赤にしながら、今にも扇を折り曲げそうだ。


 王家から申し込まれた婚姻の話は、まだ内密なものであったからか広まってはいない。その状況が良いのか悪いのかも分からない。


 だが、賽は投げられた。


 王太子にエスコートされて此方へ向かってくるヒロイン。その後ろに控えるように従うグレイス。

 人混みの向こうにそれらを認めて、一つ大きく息を吸った。

 屈する気は更々無い。


 が、一つだけ言わせてほしい。私は心より王家と王国に忠誠を捧げていた筈だ。


 どうしてこうなった。

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