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 魔法なんていう最大のチート能力になりそうなものの存在が露見したが、魔法使いは生まれながらに魔法が使えるらしいので、やはり私はチート能力とは無縁らしい。

 人生がベリーハードモードなのに何も手助けが無くて辛い。


「取り敢えず、盗賊団にいる魔法使いは一人だけか」


「そうです。そうそう魔法使いは生まれませんので……ここがアークシア王国ということも鑑みて、二人以上いるという事はまず無いでしょう」


 アークシア王国は鎖国状態で、何故か魔法使いは生まれずその存在はお伽話の登場人物扱いされている……その発生には遺伝子的な事か関係してたりするのだろうか?

 他国の統計なんて私が生きているうちには絶対に実現しないだろうから、考えても無駄な話だが。


 そんな国で生まれ育った私より余程魔法使いに詳しいヴァルトゥーラに、盗賊団を捕縛する為の作戦会議で発言を促す。

 神妙な顔でカルヴァン、アジール、ギュンターもその話を大人しく聞いていた。一応魔物と魔法の存在だけはこの国でも通用する常識なので、魔法の使える人間も、受け入れ難くはあっても有り得なくはないかもしれない……というような状態である。


「が、肝心の魔法の威力は目くらまし程度か」


 私の問いかけに、はい、とヴァルトゥーラは頷いた。

 怪我人の火傷は顔面という事で騒がれたが、見舞いを兼ねて直接見に行った所、あまり酷いものでは無かった。本人達もほんの小さな火玉が一瞬燃えただけだった、と言う。

 どうやら魔法はそんなに大した技能ではないようだ。大抵は一種類、多くても二種類の魔法しか使えないというヴァルトゥーラの説明に、少しだけホッとした。


「鎧は着ないほうがよろしいでしょうかねぇ」


 半信半疑だが一応魔法対策としてか、アジールが意見を上げる。金属鎧の熱伝導を気にした発言に、カルヴァンがすぐに反論を返す。


「いや…一瞬だけしか火は出ないそうだし、大丈夫ではないか?」


「ボケ爺。楽観視してんじゃねえぞ。そいつが火の魔法とやらを長いこと出せねえ証拠が何処にある」


 ギュンターの辛辣で粗野な物言いはいつもの事で、カルヴァンは慣れきったそれに怒ることもせずそれもそうだな、と自分の意見を翻した。

 辺境の田舎村にはちょっと珍しいほど精悍な顔立ちのギュンターの、開けた口からどっと流れでる悪態混じりの言葉に驚くのは、新参のヴァルトゥーラだけである。


「……いや。そんなに強力な魔法使いであれば、こそこそと盗みを働く盗賊団にはいる筈が無い。その力で幾らでも食べていけるでしょうから」


「そりゃお前みてぇに魔法使いが当たり前の国に生まれたらそうだろうが、ここはアークシアだぜ。雇ってもらえるなんて発想がまず出てこねぇよ」


 寧ろ本人の性格によっては、教会からの弾圧を恐れて人から離れ──盗賊に身をやつしていても可笑しくはない。

 口は悪いが頭の回るギュンターの意見に首肯して同意を示すと、四人は話を戻す為にすぐに口を噤んだ。


「ヴァルトゥーラ、魔法使いの魔法に関して、他に何か知っているか?」


「魔法は使う者の視界内にしか発動させられない。それから、魔法の行使には集中力がいるそうで、一瞬で発動するのは難しい。知っているのはこのくらいです」


「魔法の発動に関しては魔物と同じなのか……。分かった」


 範囲は相手の視界内で、発動にはタイムラグがある。それさえ判れば幾らでもやりようはある。


「そいつは必ず捕縛したい。今回の事は陛下に報告しなければならないかもしれない」


 報告したとして、証拠が無ければ眉唾物でしかない。しかしリンダールの北側で魔法使いが生まれている今、盗賊団を殺してしまって魔法使いの存在を隠蔽しておくのは愚挙になりかねない。存在するだけで厄介な面倒事が転がり込んで来るなんて、どこまで私は運が無いのか。




 盗賊団はシリル村から二つ離れた村に、二日後の夜に再び姿を表した。

 前回何一つ食糧を手に入れることが出来なかった彼等だ。徒歩で身を隠しながら移動する以上領内から立ち去る事も出来ず、もう一度近隣の村に入り込もうとする事は予測していた事だった。

 一応私がいなくとも大丈夫なように作戦を練ったが、運良く──本当に私は悪運が強い──居合わせたので指揮を直接取ることにした。


 魔法使いは、ひょろりと痩せた鮮やかな赤髪の男。火傷を負った者達が追っていた奴で、距離を取った後逃げずに敢えて振り向き、睨みつけきたという話からそいつだと一応の判断を下した。

 盗賊団の人数は八人。一応、他の奴が魔法使いである可能性も注意しておく。


「領民の生活を脅かす者共を捉えろ。殺さずに私の前に引きずり出せ」


 穀物庫に忍び込もうとする盗賊団をひっそりと包囲し、その範囲を狭め。

 私の一言を引き金に、最初の部隊が走り出す。


「……っ!見つかった、逃げろ!」


 見張りが気づいたがもう遅い。いつか使うかもしれないと戦に備えて夜襲の訓練をさせていたのがこんな所で役立つとは思いもしなかったが……。

 穀物庫を中心に八人の男達が走るが、残念ながらこの村には六十人の兵力がある。


「く、くそっ……囲まれてるぞ!」


「イグニスだ、イグニスを中心に一点突破するしかないっ!」


 訓練に従ってほぼ無言で物陰を縫いながら迫る兵士と自警団の者達の中で、逃げ惑う盗賊団の慌てた声が響き渡る。


「固まったところを潰せ。全員必ずの気絶させるか顔を布で覆うように」


「了解です、お館様」


 第二陣のカルヴァン率いる兵たちが、静かに第一陣に加わる。やがて荒事の音が夜の中に響き、一瞬だけ火の明かりが輝いた後、一切の物音がしなくなった。

 迅速に盗賊団を捕縛して戻ってきたカルヴァンに、怪我人はとだけ尋ねる。


「いません。魔法を使われましたが、視界の中心を避けさせたのと、水を被らせていたお陰で火傷を負った者もありません。盗賊団は全員目隠しをさせております」


「そうか。よくやった」


 第一陣は盗賊団を追い込む為の部隊で、カルヴァンの報告した通り、水を被らせて、盗賊団の者に目を向けられたら左右に避けるように言っておいた。

 魔法の話を聞いていくと、その練度の低さから、恐らく魔法使いは視界の中心にしか火を出さないと考えられたからだ。

 視界は目隠しで塞がせたので、もしも魔法を発動させたら自動的に目が焼ける。情報さえあれば、案外封じるのは簡単で良かった。


「領主館の地下牢に連れて行け。無能の先代が拡張していたおかげで、一人ずつ別の房にぶち込めるだろう。ご苦労だった。私は村の自警団の者を労ってから戻る」


 こうして、日常に代わり映えの無い領内をにわかにざわめかせた盗賊団は全員が領主館の地下へと繋がれる事になった。

 クソ親父がたっぷり血を吸わせた曰く付きの地下牢に、幽霊とかそういう別系統のファンタジーが存在するのか、奴等に聞く時が楽しみだ。

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