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 カディーヤは私の侍女、アニタは女官長、ヴァルトゥーラは護衛兼従者を勤めてもらわねばならない。


 王都に戻ってまず始めに、テレジア侯爵の屋敷を訪ねた。

 カディーヤを預けて、半年で使い物になるよう教育して貰えるよう話をつけておいたのだ。ついでにアニタ以下二十余名の子供達の教育係として何人か人を手配して頂いた。


「亡国の奴隷を陪臣に育てるなど、初めて聞きますな」


「いけませんか?」


「いや、この国の民として認められてしまえば問題は無いでしょう。」


 テレジア侯爵の太鼓判であれば信頼出来る。何しろテレジア侯爵から白といえば、この国では大抵のものが白になるのだから。


「それではカディーヤ、しっかりやるんだよ」


「はい、エリザ様」


 きゅっと唇を結んで、それでもしっかりと頷いたカディーヤ。この娘は他の子供達を見捨てる事も、私に拾われた恩義という忠誠心も捨てる事はできない性格だ。

 折角性格は使い勝手の良さそうな駒なので、有能な手足と成長してくれることを祈る。


 次に訪れたローレンツォレル侯爵邸で、同じ様にヴァルトゥーラを預けた。

 初陣の軍議で縁が出来、その後貴族院でも何かと気に掛けて下さる侯爵。栄養失調気味の青年一人を半年で使えるように、という無茶なお願いを、とある交換条件と引き換えに了承して下さった。


「確かに預かった。学習院に戻り次第条件を果たせよ、エインシュバルク伯爵」


「はい、必ず。ヴァルトゥーラ、半年後を楽しみに待っているよ」


「……アニタ達を、頼みます」


「勿論」




 ローレンツォレル侯爵の出してきた交換条件というのは、いつだかの一件より疎遠になっていた王太子とその取り巻きと、付き合いを戻すようにいうものである。


 侯爵の口振りからするに、仲良くしていて欲しいのは孫のジークハルトであって、王太子や大公の息子達はついでだろう。

 ジークハルトを通してその父であり侯爵自身の息子であるローレンツォレル伯爵とも縁を繋げさせたいのかもしれない。つまり、ローレンツォレル家自体と私を結び付けておきたい、という事だ。

 武勲によって力をつけたにも関わらず、テレジア侯爵以外と殆ど付き合いが無いという私の現状は、そのテレジア家とアークシア王国の権力を二分しているローレンツォレル家としては黙っているわけにもいかないのだろう。


 私としては願ったり叶ったりな話だ。孤立したまま伯爵位から引きずり降ろされるのを防ぐのに、これ以上有効な人脈関係は無い。もともと武勲で身を立ててしまった私としては、ローレンツォレル家の後ろ盾は歓迎すべきものである。

 とはいえ総帥の孫はともかく、王太子や大公家とまで縁を結ぶのはいささか分不相応だ。不要な妬みを買うのは避けたい。


 学習院に戻ると、久々に王太子が声を掛けてきた。

 長期で学習院を空けた後は必ず王太子に出迎えられている気がする。私の地位関係から、必要な事なのだろう。ねぎらいを兼ねているのかもしれない。


「おかえり、カルディア。賊は大丈夫だったの?」


「ええ。賊よりも、それが連れていた奴隷の処分の方が問題になって領地へ戻っていましたから」


「奴隷?」


 王太子の眉間に皺が寄る。アークシアでも奴隷は認められていない。野蛮な制度として忌避されているのだ。


「プラナテスの南国境に面した滅亡国から拐かされてきた者達でした」


「なるほどね……。リンダールはデンゼル公国の蛮行をそろそろ抑えても良いはずなのだけれど」


「抑えられる力がもうないのかもしれませんし、或いは他の公国にとって都合が良いのかもしれませんね」


 世間話に区切りがついたところで、ジークハルトを探す。彼は大公家の二人とは少し離れたところで、何故かゼファーと話をしながら此方を窺っていた。

 好都合だ。ゼファーとは挨拶を交わす以上の友好関係を築いていると言っても過言ではないし、彼とジークハルトの間に王太子達の関与しない繋がりがあるならばそれを使わない手は無い。


「ゼファー、戻ったよ。ジークハルトも、久々に顔を見た気分だ。変わりないか?」


「やあ、おかえりカルディア。お疲れ様」


 王太子の言葉などよりも、余程(いたわ)りを感じられるゼファーのそれに、ふと笑いが漏れる。


「そちらこそ、道中無事で良かった。……機嫌がいいな、どうした?」


 ジークハルトの返しは、ゼファーとは打って変わって距離感を探っているようだった。

 元々剣の訓練時に何度か組んでいた事もあり、私とジークハルトの仲は悪くはない。疎遠になった後も、何かとこちらを気にしているのは知っていた。大公家の二人に遠慮してか、話し掛けてきた事は無かったが。


「人員不足の我が家に、かなり良い条件の人手が降って湧いたからな。教育は必要だが、きちんと仕込めばかなり使えると思う。ああ……そういえば。ジークハルト、ローレンツォレル侯爵に一人、護衛を兼ねた従者にする予定の者を預かって頂いた。よろしく頼む」


 勿論、これは単なる社交辞令の一つだ。ジークハルトも他の生徒と同様に、学習院の寮に住んでいる。ヴァルトゥーラに関して彼自身によろしく頼む事など一つもない。

 だがこれで、私がジークハルトとは付き合いを戻したいと思っている事は伝わる筈だ。


「……ああ、分かった。不自由はさせない。祖父に任せたのであれば、予想以上に優秀な従者になるだろうな」


「そう思って侯爵を頼った。戻ってくるのが楽しみだよ。そうそう、私が欠席していた間の講義について、聞いても構わないか?ゼファーも」


「問題無い……そうだな、紙に纏めたものを明日持ってこよう。寮で復習代わりに書き付けていたものだが、あった方がいいだろう」


「僕も明日でいいかな。残念だけど、今日は時間が取れそうにないんだ」


「助かる」


 和やかに会話を始めた私達に、大公家の二人からの鋭い視線が飛んできていたのは無視する事にした。

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