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 前情報として、地理の話をする。

 このアークシア王国の国土は広く、感覚でいえば前世で言うところのフランス、スペインあたりと同程度の面積を保持しているだろう。大陸の三分の一を占める大国である。

 東に存在するリンダール連合公国は、四つの公国から成る国である。面積はアークシアの二回りほど小さく、ドイツと同じぐらいだと考えられる。北西はデンゼル、北東にはバーミグラン、南西にはプラナテス、南東にはジオグラッドという公爵がそれぞれを治めているという。

 大陸の残り、南側では小国が犇めき合っている。人種が多い為だ。まるで中世ヨーロッパのように戦が絶えず、千年以上の間併合と分裂、興亡を繰り返しているらしい。


 ゲーム内では一切語られることの無かったアークシア王国の外側の話である。

 ちなみに、アークシア王国はこの六百年ほど殆ど鎖国状態で、大陸で最も平和な地帯である。

 とはいえ辺境では稀に侵略に対する防衛戦が行われるので、うまいこと技術の停滞は起こらないようになっているそうたが。


 さて、なぜこのような話を始めたのかと言えば。


 隣国リンダールの南西を治めるプラナテス公国から、私の伯爵領とその隣のジューテス伯爵領へ密入国した一団が捕縛された。

 その一団がまた厄介なもので、なんとプラナテス公国の南の、過日に戦で滅びた亡国で奴隷狩りを行った、デンゼルの奴隷商人の一団であったのだ。

 プラナテスでは奴隷制度は厳しく禁止されているが、デンゼルではそうではない。

 奴隷商人達はプラナテスの南国境を越えたあたりで奴隷を秘密裏に狩り、プラナテスで捕縛されるのを避けようとアークシアへ密入国して北上していたのだ。

 ジューテス伯爵領の国境付近にある赤の森を抜けて私の領に侵入した一団は、魔物の森を越えてデンゼルへ戻ろうとしていたという。


 捕縛した商人達はすぐさま敵対国からの密入国者として処刑したが、問題は彼等の連れていた奴隷達である。

 亡国から連れ出された為返す宛も無く、かと言って停戦調停中であるリンダールには、プラナテスにもデンゼルにも返す事は出来ず。


 馬車を走らせて半年振りに自領に帰還した。

 ジューテス伯爵と話し合い、奴隷達は全て私の領で引き取る事にしたのだ。その見返りとして、ジューテス伯爵領の関税をこの先五年程軽くしてもらったが。


 今は殆ど使い道の無い領主館で一時的に保護して貰っていた奴隷達は、その殆どが私と同年代の、見目麗しい娘達であった。中には少年も居るようだ。

 この国には存在しない、珍しい浅黒い肌と白金色の髪は、確かに趣味の悪い道楽として飾りにするにはぴったりの美しい色彩だといえた。

 彼等の故郷である、今は無きジェンハンス小公国の民の特徴である。商人共がデンゼルまで辿り着いていたならば、さぞや高値で売れたことだろう。

 戦争で疲労しきった直後に奴隷商人共によって五百キロメートル以上も引きずり回され、痩せ細つて怯えきった彼女等には少々同情を覚えた。


「心配はいらない。君達は私が保護をする事になった」


 三十人ほどの彼等をこれからどう使うか、迷いどころではある。

 学習院には二週間の公欠を届け出て来た。降って湧いた人手だ。上手く見極め、必要であれば育て、使いこなさなければならないだろう。


 本集落の女連中を集め、暫く彼らの為に館を運営してもらう事になった。


「秋の忙しい時に済まない。給付金は弾もう」


「あたしらは別に構いませんよ、お館様。最近は隣領から移ってきた人手もありますし、どうせ畑仕事が一段落した昼過ぎからの仕事ですから!」


 朗らかに笑う妙齢の女性達は、恐るべき容量の良さでジェンハンスの少年少女達を清め、食事を与えて世話をした。

 皆子を育て、孫を育てた経験のある逞しい女達なので、この仕事には適役だった。

 村の女達のお陰で、五日もすると子供達は随分元気を取り戻したようだった。精神状態も徐々に落ち着いてきたように見えた。とはいえあれだけの事があったのだし、心のケアは生涯必要だろうが。


 少年少女達の中では、いつの間にやら緩やかな上下関係が構築されていた。自然、私が直接話すのは、リーダー役として……というより、姉や兄に近い役割を担っていた、年上のカディーヤとアニタ、ヴァルトゥーラという三人となる。


 カディーヤは一番年上、十八歳の少女で、幼い頃は父が羽振りの良い商人であった為読み書きが出来た。

 アニタは十七歳、従軍していた父に代わって働きに出た母を支えていたらしく、家事に長けている。

 十七歳の青年であるヴァルトゥーラは、キャラバンの護衛で生計を立てていた父に仕込まれたらしく、剣が扱えた。

 その三人と、二十一人の少女達に、六人の少年。


 何日も唸り続けて頭を捻り、やっと使い道が思いついたのは王都に戻る二日前だった。


「カディーヤ、アニタ、ヴァルトゥーラ。私は明後日には王都に戻らねばならない。だが、君達をこの領に置いておくことは出来ない。一週間かけて様子を見てきたけれど、君達だけならともかく、十歳そこらの子達に生計が立てられるような仕事は領内には無いからな」


 カディーヤ達は神妙な顔で、話を始めた私を見詰める。自分達の生活がどうなるのか、子供達の代表として、あるいは保護者として私の言葉を聞いているようだった。


「なので、全員一緒に王都に来てもらうことにした。君達の仕事は私の世話だ。よろしく頼む」


 簡単に言えば、丸ごと家臣として抱え込むことにした訳である。

 きょとんとしていられるのは今のうちだけだ。私の手足となれるよう、王都に着いたら地獄のような教育が、それが終わったら働いてもらわねばならないのだから。

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