助太刀 each other
「畜生」振りほどこうとして、次に右足を掴まれ、だん、とコンクリートの床にひっくり返る。あっという間に、一人が背中の上に馬乗りになり、もう一人が両足を押さえにかかった。残り一人は、彼の頭の近くに立っている。これでは昆虫採集の標本だ。あーあ、オレもなまっちまったもんだ、どこかで他人のようなつぶやき。
「おい、コイツどうする」足を押さえたヤツがスーちゃんのサンダルを脱がせて、遠くに放り投げながら言った。「メグミに怒られっぞ、余分なのに構ってっとよ」
背中に乗ったヤツが面倒くさそうに言う。
「ころしちゃう?」
「ボコボコにしてからトランクに積んで持ってきゃいいさ、賞金もかかってるし」
「案外、弱っちかったな」
横に立っていたヤツが、スーちゃんの右腕、ちょうど肘のあたりに足をかけた。
「まずブキを奪ってだな」自分の足を高く上げ、がつっと堅い靴のかかとで関節を思い切り踏んづけた。
「!!」声にならない叫び、目から火花が散った。
「ぜんぜんダメじゃん、も一回」「どっかで鉄の棒でも探してこいや」「もーちょいチャレンジしてみてからねぇ」また靴が上がった。
と、その時
「ちょっと」奥から低い声がして、三人はぎょっとして顔を向けた。
組み伏せられたスーちゃんも、やっとで顔をあげる。
そこには相変わらず、ユキがいた。だが、いつもの彼女とどこか違う。
ユキは、ふらりと身体を揺らし、一歩前に出た。前にかかる髪を無造作に後ろにかき上げて、少し斜めに連中を見る目は、明らかに、危険な光を宿していた。
「アタシの……連れに手を出さないでくれる?」
「はん?」あっけにとられる男たち。その時スティーヴンは気づいた。
彼女の胸元には変化章。そして、それが輝きを増しつつある。白く、かすかな光がだんだんと強く、つよく眩しく……ユキの姿が暗がりでかすかに光りはじめる。
「すぐに、放しなさい」
急に肘の痛みが消えた、同時に何か、不思議な熱が体中を駆け廻る。
「おい」上に乗った黒スエットの声がわずかに震えている。
「何なんだよ、それ」
「ばあちゃんが言ってた……」脇の男も、後ずさっている。
「このへんに出るって……オンナのユウレイが、白い服で」
「やめろよ」後ろの押さえも緩み、そのすきにスティーヴン、ばっと立ち上がる。
「っあにすんだ!」上の二人ははね飛ばされ、その場に尻もちをつく。その前に彼は、ユキと同じようにすっくと立ってヤツらに向かい合った。軽く構えをつけたまま。
自分の姿も光りはじめた。感じる、力が戻ってきている。
「オマエら」スティーヴンも静かに告げる。
「オトコのユウレイも、出るんだぜ」
三人は、少しずつ、後ろに下がり始める。目をそらしたらとって喰われる、と思っているらしい、ずっと彼らに阿たような目を向けたまま、口もとは恐怖に引き攣らせ、じり、じりと道路へと向かっている。そして、ようやく日の射す歩道にたどり着いたと思ったら
「ひゃああああああ※◎△~Φ☆●〒」
コントに出てくる連中のように両手を挙げ、とんでもない悲鳴とともに何処かへとまっしぐらに駆け出していった。数少ない通行人が、それでも物珍しげにそれを見送っている。
ようやく、ぱんぱんと服のほこりを払っているスーちゃんに、ユキは後ろからそっと近づいて
「ありがとう」小さな声で言ってから、背中のほこりをはたくのを手伝い始めた。
「何だよ、アイツら」ようやく片隅に放り出されていたコンビニの包みとサンダルをみつけ、彼らは陽光うららかな表通りへと出ていった。
「うん……前に話したかも、同じ学校のどーしよーもないオンナのカレシたち」
「ああ、あれね」すでにヤツらの姿はどこにもない。
「趣味わりいなあ、ソイツらも」
「だよね」
ちらっとユキに目をやる、が、向うもこちらを見上げてきたのであわてて目をそらした。
「まあな」咳払いしてから付け足した。
「また似たようなことあったら、助けを呼べよ」あごでユキの胸につけた変化章を指し
「ガラクタもちったぁ、使えるみたいだしな」
「そうかもね」ユキは笑いながら、変化章を外す。
「つい習慣で、自分の番の時はつけちゃうんだ」それからまともにスーちゃんの顔をみた。
「今日はほんと、ありがとう」
「い、いや別にたいした助けつうか……オメエ一人でも多分さ……」なぜかオタオタするスティーヴン、ユキはそっと彼の肘に手を触れる。
「アタシもまた、駆けつけてあげるから。助けがいる時には」
はあ? 何言いやがる、と言ってやろうと思った時には、すでにユキは駆け出していた。
その後ろ姿を見送るスティーヴン、触れられた肘に、そっと手をやる。
何となく、そこだけほんのり暖かいような気がした。




