乙女危機一髪 02
カオリ、声が低く変わっている。
「せっかくお会いできたんだから、今からちょっと、つき合わない?」
「え?」
「リョウのアパートでちょっと、お茶会なの。アナタも参加して頂戴よ」
リョウと呼ばれたのが、メグミに呼びかけた方らしい。始めはコイツも「え」という表情になったが、すぐにメグミの目配せに気づき、ニヤニヤと相好を崩す。
「ええ? いいのかな? いいのかな~~?」
「いいわよね? カオリさんもタケルも」
カオリも最初はきょとんとしていたが、少しだけ考えるように首をかしげ、すぐにまたくすくすと笑いだす。タケルは「え? オレもいいのぉ。またかよぉ」最初からずっとニヤニヤ笑いが止まらない様子。
ユキ、背中に冷たい汗。まずいかも。彼らに拉致される、ってコト?
以前一度、彼らに睨まれた同じクラスの女子が、ある日メグミたちに外で呼び出され、それから学校に来なくなってしまったことがあった。小柄な明るい子で、ユキもそれなりに仲がよかったのだが、何の相談も受けることなく、彼女は間もなく退学してしまったということがあった。何が起こったのか、誰も知らなかったし噂も尤もらしいものばかりだったが、真相は結局判らず終いだった。
「いいじゃない、ユキさん。たくさんの殿方をお相手してるんでしょ」
「……そんな。そんな意味じゃなくて」
一歩下がろうとした。が、タカのようにメグミのかぎ爪が腕に食い込んでいる。
変化章はあいにく、あかねのところだった。ますますまずい。しかし変化章を持っていたとしても、この人たちの前ではヘンゲした所を見られたくない。
メグミとカオリだけならば、多少強い口調で追い払うことも今の自分ならばできそうだが、こんなオトコが二人も付いていれば、まず歯向かうのは無理。
ユキは真っ青になったまま、おろおろとあたりを見回した。
(助けて……)
通行人は数人目に入ったが、誰もわざわざこちらに寄ってこようとはしない。そこまで切羽詰まったようにはみえないのか、それとも単に関わりあいになるのを恐れたのか。
(誰か……)
「と、そこへよぉ」
ごくりとつばを呑んだままのあかねに急に身を乗り出すように、ユキが問いかける。
「誰が来たとおもう?」
「えっ?」こ・こ・で、クイズですか。あかねの口がとがった。
「もったいつけずに教えてよ、誰が来たの?」
「回答チャンスは3回まで」
「またもや! 何でよーーーー」それでも真剣に考えるあかね。
「タクト?」ブー。
「スーちゃん?」ブー。残念。すごいヒントあげる。
ヘンゲメンバーじゃ、なかったのよ。
「えええ?」わざわざこんな話をするのならば、ありきたりの大人ではなさそう、そう思いつつもつい何となく
「コンビニの店員さん?」ベリーありきたりの答えに落ちつく、が、
「ざんねん!」ユキにあっさりと斬り捨てられた。
「降参。もういいから早く教えてよ」
投げやりなあかね、だが次の答えに完全に凍りついた。
「名前は知らないけど……とある高の男子、多分2年生」
前髪が長く目にかぶっていて、ちょっと小柄で、まあどちらかというと……ネクラ系?
「その子が急に後ろから来て言ったの、メグミたちに。
『もう警察呼んだから、早く帰ったほうがいいよ』って」
それでメグミたちは、憎々しげに何ごとか吐きながらも、その場から退散したのだと。
「でもね、」ユキが笑いながら言った。
「アイツらいなくなってから、前髪あげてね、にっこりしたの。だいじょうぶだった? って。だれ? って聞いたらいや、名乗る程の者でもありません、単なる一介のファンなんです、あなたのお姉さんの……って」
ツヅキのヤローに間違いない。アイツ、ユキのことも見張っているのか?
そう疑いつつも、
「ツブラな瞳が結構キュートだったよ」
ニコニコとそう語るユキの趣味が、今一つはかりかねる姉、あかねであった。




