表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3rd-Real  作者: 音祇 レンド
帝国脱出編
9/13

迷宮都市に漂う暗雲

 『迷宮都市デザイル』は地下に張り巡らされた巨大迷宮の上に作られた都市だ。

 幾重もの階層と広大な領域を持つ迷宮は未だに全貌を明らかにしていない。

 迷宮内には金銀財宝が山のように眠り、誰も見たことがないモンスターも存在しているとのことだ。

 そのおかげというべきか、一攫千金を夢見る者達や未だ見ぬ強敵を求める怖い者知らず達で構成される冒険者達が連日都市を賑わせている。


 都市の運営は絶対中立組織『ギルド』が主に受け持っており、迷宮に挑戦しようとする冒険者の管理も行っている。

 『ギルド』はどの国家にも存在し、クエストという形で依頼を受注したり、各国家の情報をいち早くとどけたりとその用途は様々だ。

 ここの迷宮都市では冒険者のランクに応じて挑戦出来る階層や領域を制限することで、冒険者の無駄な死を回避しているのだ。


「6番でお待ちの方、3番カウンターまでお越しください」


「あ、俺だ」


 ヴィネルは迷宮都市について書かれたパンフレットから顔を上げる。

 彼が居るのは迷宮都市デザイルの中央に位置するギルド支部の中だ。

 リゲルデ村を出てから数日、何事も無く無事に到着することが出来ていた。


 ギルド内はかなりの広さを誇っていた。

 酒場のようなカウンターが3つほど並び、それぞれ受付が立っている。

 一番人気が多いのが奥のボードの周辺だ。ボードにはクエストの張り紙がされており、その周囲には見るからに冒険者と分かる者達が大勢いて、パーティやクエストの募集や情報交換などに勤しんでいる。

 そんな中でフリースペースとも呼べる場所で椅子に座っていた真白な死装束を身につけているヴィネルはひたすらに目立っていた。

 今も立ち上がったヴィネルに視線を固定している者は多い。

 だがその本人は気づいているのか気づいていないのか全く気にする素振りを見せなかった。


 すぐに『Ⅲ』と刻まれたカウンターへとたどり着く。

 笑顔の眩しいお手本のような受付嬢がヴィネルを迎えた。


「お待たせいたしました! ヴィネル様ですね。ギルドへの新規登録ということでよろしかったでしょうか?」


「あぁ、そうだ」


 ヴィネルは頷きながら肯定の意を発する。

 ギルドへの登録は次に現れたメインクエストに必要となることだった。


【『メインクエスト・帝国からの脱出Ⅲ』 ギルドランクをSまで上げた貴方は目的の階層まで進入出来る資格を獲得した。デザイル地下迷宮第73階層の隠し通路からメルティエ王国へと脱出せよ――完了0/1】


 ヴィネルは初め、それを見たとき目を疑った。

 このクエストが現れたのは『メインクエスト・帝国からの脱出Ⅰ』の完了時、レベルアップと共に迎えたそれを見てヴィネルは思わず首を捻った。


 『Ⅱ』が省かれている。


 『Ⅲ』のクエスト内容からして『Ⅱ』のクエストは『ギルドランクをSまで上げる』だったということが読み取れる。

 もちろん到着したばかりでギルドの登録すらしていない状況にも関わらずその条件が達成されていることになっていた。

 謎の状況に陥っているが、ヴィネル自身このクエスト自体がどういった物か分からない状態であり、とりあえずこのまま進めることに決めていた。


「ではこちらに必要事項の記入をお願いします」


 ヴィネルは紙面に目を通し、必要事項を記入する。

 大陸公用語で書かれた文字だったがヴィネルには難なく読み書きが出来た。

 それがいつ、何処で覚えた物なのか……ヴィネルは記憶の端すら掴めないままだが。

 名前、性別、年齢、と順調に書き進み、ある項目でそれが止まった。


「あ、どうかなされました?」


「いや……記憶喪失でな。出身地が分からないんだ」


「それは……わかりました。そちらは空欄でも構いません」


 そこまで重要では無かったのか特に問題は無いようだ。

 ヴィネルは出身地以外を埋めて提出する。

 受付嬢はそれを受け取って傍らに置いてあった水晶玉に紙をかざして呟く。


「『登録認証』…………あれ?」


 受付嬢は途端に驚愕の表情を浮かべる。


「どうした、何か問題が?」


「いえ……あの……既に登録されてるんです」


「……なんだって?」


「記憶喪失って仰ってましたよね? もしかしたら、それ以前に登録した物かもしれません。この場合、ギルドカードの再発行となります」


 受付嬢はそう言う間にてきぱきと作業に移る。

 ヴィネルが唖然としている間に水晶から光の粒子が溢れ出しそれが寄り集まった後には金色に輝くカードが出来上がっていた。

 それを差し出され、なすがままにヴィネルは受け取る。

 刻まれた情報を確認すると、確かに自分のものとほぼ一致していた。

 違っていたのは空欄のはずの出身地。そこには何故か『黄泉路』と刻まれている。


(黄泉路……ねぇ。後でGPSマップで探してみるか――――なんだ、こりゃ)


 最下段に刻まれた文字を見た瞬間、ヴィネルは気味が悪い感覚に苛まれた。


 最下段に刻まれた文字は『SSS』ギルドの最高ランクを表していたのだ。


 最高ランク。何かの間違いかと二度見直したり、擦ったりするもその文字は変わらない。

 さらには憧憬に満ちた受付嬢の熱っぽい視線が突き刺さり、ヴィネルはだんだんと居心地が悪くなってくる。

 流石にこれは捨て置けないと思ったヴィネルは受付嬢に尋ねた。


「なぁ……これは人違いとかじゃないのか? 同じ名前の奴とか……」


「ありえません!」


 受付嬢はきっぱりと否定すると、勢い良く立ち上がりカウンター越しのヴィネルへと身を乗り出してくる。

 得も知れぬ恐怖に襲われヴィネルは一歩身を引いた。


「いいですか。このギルドの認証システムは伊達じゃありません! 実は用紙の記入に使用していただいたこの羽ペン! なんと、特殊な材料と製法で造られており魂の伝導率がものすーっごく高いんです!」


「そ、それで?」


「そんでもってこのペンで用紙に記入することで魂の情報をこの用紙に刻み、それをこの水晶玉で読み取ってるんや。だから間違いなんて絶対に起こらないっちゅーわけや!! 分かったか、じぶん!?」


 大声で嬉々として解説する受付嬢にヴィネルは否応無く頷かされる。

 途中からそれが地なのか分からないが、口調がえらく訛っていた。

 はっ、と正気に戻ったかのように表情を変えた受付嬢は静かに座りなおす。


「んんっ! ……お分かりいただけましたでしょうか?」


「……十分すぎるほど分かった。ありがとう」


 ヴィネルはこれ以上関わるとロクなことが無いという漠然とした不安にかられ、礼を行って足早に立ち去って行く。

 受付嬢は接客用ではない笑顔でその後ろ姿を見送りながら、独り言つ。


「間違いない、ホンマもんの『紅蓮の瞳』や。……こういうのを『僥倖』って言うんか? ふふっ、面白くなってきたやん」






 迷宮都市デザイル。商店や宿屋がある通りから離れた裏路地で3人の男達が言い争っていた。


「なんであの化物がここにいるんだよ!」


「誰だよデザイルに行こうって言い出した奴は……」


「お前だろうが、ちったぁ反省しろ!」


「うるせぇな! てめぇだって賛成しただろうが!」


 ぎゃあぎゃあと言い争っているのは帝国がヴィネルへと放った刺客だ。

 彼らはつい先程この街に到着し、ギルドの扉を開けた瞬間目に入った死装束を前に脱兎の勢いでここまで来ていた。

 彼らは既に戦意を喪失し、逃げることだけしか考えていない。


 徐々にエスカレートしていく言い争いでついに一人が我慢の限界に達し腰にある剣を抜こうとしたとき、彼らはようやく気づいた。


「な……なんだ?」


「体が……!」


「動かねぇ!?」


 どれだけ力を込めようとも体が固定されたかのように動かない。

 動揺を露にする3人の前に一人の男が上空から現れる。

 軽い音を立てて降り立ったのは紺色の司祭服を身につけた若い男だ。


「その格好……まさか『教会』か!?」


 身動きの取れない状態で一人が叫ぶ。

 魔を討ち祓う力を持つ『教会』の人間は、魔物の力を宿している『強化人間』の天敵だ。

 だが、司祭服の男はそれを聞くと呆れるように表情を歪めて黙ったまま左肩を指し示す。

 そこには『ある象徴』が存在を主張していた。


「帝国の紋章!? て、てめぇ……司祭級ビショップか!」


 そう、そこには赤い龍を模した帝国の紋章があった。


「御機嫌よう。そして、さようなら――『ウォータリングボール』!」


 言葉と同時に3人の頭部に水球がかぶさる。

 もがこうとしても身動きが取れず、為す術も無いまま3人の男達は溺死する。

 まるで操り人形のようにだらりと力無く宙に浮かぶ死体は不気味としか言いようがない。

 だがその死体も、1分と待たずに塵へと還っていった。

 強化人間も魔物と同じ末路を歩むのだ。


「逃げようなどと企むからですよ。しかしなんで私がこんな雑用を……まぁ、面倒な死体の処理が無いのでよしとしましょうか。しかし……『紅蓮の瞳』は何処で捕えるとしましょうか。街中で騒ぎを起こせばギルドが黙っていないでしょうし……そうなると、やはり迷宮内ですね。とりあえず騎士級ナイトと合流しなければ」


 とん、と軽い音と共に路地裏から男の姿が消える。

 雲ひとつ無い晴天の下、ヴィネルの周りには暗雲が漂い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ