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3rd-Real  作者: 音祇 レンド
帝国脱出編
10/13

パーティ結成

 ギルド支部を後にしたヴィネルはとりあえず迷宮への入り口へとやって来ていた。

 その様子を鑑みるに、ギルドランクのことがまだ気にかかっているようだ。

 他者とは違う体、『紅蓮の瞳』、そしてギルドランク『SSS』。

 此処に来てようやく、ヴィネルは自分の過去が気になり初めていた。


「こうなったらマジで記憶取り戻さねぇと気持ち悪いな……っとここか」


 迷宮都市デザイルの地下にある巨大迷宮にはワープポータルを使用して進入する形になっている。

 迷宮内の階層も階段のように物理的に繋がっているのではなく、全てワープポータルによって繋がっている。それを利用してどのワープポータルからでも入り口に戻ってこれる仕組みにしているようだ。


 迷宮内は階層毎に進入出来るギルドランクが決められており、1~10階層はランク『G』から、11~20階層はランク『F』から、というように10階層区切りでランクが1段階アップする形になっている。

 メルティエ王国へと脱出することが出来る階層は73階層なのでランク『S』から進入出来る形となっている。

 入り口のワープポータルはそれぞれのランクに応じて一つずつ用意されており、CやBの使用率が最も高く、Aは少なく、Sに至っては利用されること自体が稀となっている。

 そのためか探索の進行度が進んでおらず、今現在まで確認されている階層は73までとなっていた。


 ヴィネルは全く人気のないSランクのワープポータルにたどり着くと早速迷宮へと入ろうとする。

 既に進入方法はパンフレットで学んでいた。

 宙に浮く青い水晶玉にカードをかざして言葉を紡ぐ。


「『進入認証』っと……お、きたきた」


 水晶玉に進入出来る階層が浮かび上がる。

 このギルドカードは本当に有効らしく、73階層まで進入可能とあった。

 ヴィネルはパンフレットで学んだ通りに言語を紡ぐが……。


「73階層へ進入――――あれ?」


 水晶玉に浮かび上がったのは『進入不可』の文字。

 何か間違えたかと再度試そうとするヴィネルに背後から声がかかった。


「あかん――あかんよ、じぶん。70階層からは熟練者でも危険やから2人以上のパーティやないと進入出来へんようになっとるんよ」


 ヴィネルが振り返ったその先にはホットパンツにジャケット、ロングブーツを履いた女性が立っていた。

 身につけている物は黒のレザーに統一されており、左右の腰元には二つの短剣が鞘に収まっている。

 その髪はそこらの影よりも濃い黒色をし、それをショートヘアにしていた。

 月のない夜のような漆黒の瞳には、まるで光を吸い込んでいるような錯覚すら覚える。

 無駄に露出が高く、スレンダーな体つきを披露するその美女は、特徴的な口調でヴィネルに話しかけてくる。


「お兄さん、もしかして困ってるんとちゃうん? なんだったら協力してもえぇよ。そん代わりウチにも協力してもらうけど」


「……ギルドの受付嬢だよな。仕事はどうした、仕事は」


「んなっ……! なんで分かったん!? ウチの変装はバッチシ完璧やったのに!」


 ヴィネルの言葉を受けて黒髪の女は取り乱す。

 ヴィネルはさも当然という風に口を開く。


「や、そんな変な口調の女が二人も居るわけがないし」


「……辺境の村の訛りだったらどないすんねん」


「う……」


 ジト目で見つめられてヴィネルは思わずたじろぐ。

 あまりにも整った顔立ちは凶器だということをヴィネルは知った。


「……どないすんねん」


「うぅ……わ、悪かったよ」


 ヴィネルがポツリと謝るとぱぁっと女は笑顔を浮かべる。


「まぁ……この口調ウチのオリジナルやけどな!」


「って、それならアンタしか使う奴いねぇだろ!」


 カラカラと悪戯っぽく笑う女を前にしてヴィネルは嘆息する。

 相手のペースに嵌っていることを自覚し、なんとかしようと考えるがその先手を打つように女は言葉を紡ぐ。


「じぶん、メルティエ王国に行きたいんやろ?」


「……なんで分かったんだよ」


 ヴィネルは警戒心を露にする。

 それを全く気にする事無く意味ありげに女は笑う。


「んっふっふ~内緒や。実はウチもメルティエに用があんねん。でも進入には『S』ランクを持つ相方が必要やし、その相方もメルティエを目指す奴やないとあかん。そうやないと迷宮内に1人取り残すことになるからのう。どや? ウチも腕には覚えがあるから足でまといにはならん自信はあるよ」


 ヴィネルはしばし思考する。

 得体が知れない、とは思うものの渡りに船ではある。

 何故目的がバレたのか想像もつかなかったが、ヴィネルは説明する手間が省けたと思うことにした。

 『帝国の追手』という可能性も考えたが、クエストが出現していないことからとりあえずは大丈夫だと判断する。


(迷宮に入っちまえばどちらにしろ同じか……もし追手なら潰せばいいだけだし)


 ヴィネルはそう判断し口を開いた。


「分かった……協力しよう」


「おぉ、分かってくれると信じてたで! ウチはエリシアっていうねん。呼び捨てで構わへんよ。ほな、よろしゅうに!」


「ヴィネルだ。俺も呼び捨てでいい。……よろしくな」


 それぞれの思惑を胸に双方とも笑顔で握手を交わす。

 その日、二人はパーティを結成した。






 石で造られた通路をゆうゆうと歩くヴィネルとエリシア。

 等間隔で壁につけられた燭台が二人を煌々と照らし出す。


 デザイルの地下迷宮内では基本的に紙で書いた地図は必要無い。

 ギルドカードにはマッピング機能が付随しており、踏破した場所の地図を自動で記録し、それを表示させることが出来るのだ。

 しかし今現在、ヴィネルとエリシアはその機能を使わずに迷宮内を進んでいた。


「ってか、なんちゅう便利なもん持ってんねん。それ、魔法か?」


 ヴィネルの目の前の空間に浮かぶGPSマップを指で差して問うエリシア。

 その表情は興味津々と云った様子がありありと伺える。


「なんだろうな? 自然と使えてたから良く分かんねぇな」


 エリシアがそう思うのも無理はない。

 何故ならGPSマップには迷宮内を網羅しているとさえ思えるほどの情報が表示されていたのだから。

 迷宮の構造はもちろんのこと、モンスターの位置、仕掛けられたトラップなどを完璧に表示していた。


「……ほんまに人間か、じぶん?」


 割と本気そうに、しかも何故か見るからに嬉しそうにエリシアは問う。

 ヴィネルはGPSマップから目を離さずに答えた。


「俺も、最近自信が無くなってきたところだ――お、モンスター発見。――『砲火』!」


 GPSマップに出現した敵勢マーカーが射程内である25メートル内に入ると同時にヴィネルは立ち止まりながら『砲火』を発動させる。

 『砲火』は火球を撃ち出すスキルで、『凰鬼』にとって基本的な遠距離スキルだ。

 デザイル到着時にレベルが上がったヴィネルはそのスキルを取得していた。

 レベル1だとせいぜい大人の頭程度の大きさの火球しか作れないが、パッシブスキル『業炎極化』の効果で性能が強化され直径約2メートルの大火球と化している。


 立ち止まったヴィネルの眼前に現れた火球は数秒の滞空の後、轟々と唸りを上げて発射される。

 『魔弾』の効果で絶対命中となった火球は曲がり角を直角に折れてなお進む。

 爆音とモンスターの絶叫が離れたヴィネル達の元へと届く。

 ヴィネル達の位置から見えないモンスターは何処から攻撃が放たれているのか分からないのか向かってくる気配はない。

 あたりかまわず暴れまわっているようで振動がびりびりと伝わってくる。

 『砲火』の再使用時間クールタイム20秒を挟んで何度か砲撃すると、ヴィネル達の元には悲痛な断末魔が届けられた。


「ほんま、鬼やな……」


 呆れた様子で呟くエリシアにヴィネルは感心した表情を向ける。


「へぇ、よく分かったな。俺の職業は鬼だ」


「職業鬼!? それ種族と違うんかい!」


 勢い良く入ったツッコミにヴィネルはしばし思案して口を開く。


「……『凰鬼』って職業は?」


「んなもん、あるかいな。聞いたこともあらへんわ――ってか何する職業やねん」


「主に戦闘だとは思うんだが……」


 エリシアの即答にむぅ、と唸るヴィネル。

 謎ばかり増えていく。そんな状況にそろそろ飽食気味なヴィネルであった。

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