プロローグ
『センチュリア・オンライン』今や一般的レベルで普及した仮想現実機構、通称『VRS』技術を使用した体感型のMMORPG。
当然、ユーザー数は他のゲームと比べても格段に多く、軽く億は超す数を誇っている。
とは言うものの、別のゲームと比べても舞台設定やシステムに大きな違いがあるとは言えない。街があり、NPCが居る。ダンジョンがあり、モンスターが居る。
プレイヤーは100を超える職業を選択し、アイテム生産に勤しんだり、モンスターを狩ったり、プレイヤー同士の戦いを楽しむ。
確かに自由度は高いのだが、それはどのゲームでも言えることだ。
それでは何故これほどの人気を誇るのか。それは数あるVRMMORPGの中でこのゲームは一線を画している部分があるからだ。
前代未聞である、五感全ての実装。
料理を食べたときの味覚から、物に触れた際の触覚、果てはダメージを受けたときの痛覚に至るまで忠実に再現しているのだ。
極限まで追求したリアリティ。前情報の段階でそれが知れた際の反響は凄まじい物だった。
要するに彼らは皆、飽いていたのだ。
美味いと感じるのだが、何処か現実味の無い味。同じ岩に触れば同じ感触が伝わり、ダメージを受けても少し衝撃が走ってHPが減るだけ。
もっと現実味のある『非日常』をユーザー達は渇望していたのだ。
そして、その渇望は満たされることになった。
同じスキル、同じ材料で作った料理も、作り手や食べる側によって味覚に変化が感じられる。
家の壁から石ころ一つに至るまで、まるで天然物のように感じる感触。
そして――剣で斬られれば、実際に体を斬られるようなリアルな感覚に加え、現実となんら遜色ない痛覚が与えられる。
『第二の現実』そう、その世界はまさに、もう一つの現実世界と呼ぶに相応しい世界だった。