第九章:忠誠の亀裂と狂気の境界
地下B3研究室。佐藤刑事の荒い息遣いと心拍モニターの音だけが響く静寂の中、朱里は激しい憎悪を込めてミオを見つめていた。
「意志を持たない人形でいれば、ずっと守ってもらえるとでも思っているの?」朱里はミオに詰め寄る。その手にある鋭利な刃が鈍く光った。「彼は新しい刺激を求めている。そして、あなたはもう退屈な存在よ」
朱里は静かに策略を巡らせる。彼女は劇薬の入ったバイアルを手に取った。ミオが監視している間に、それを佐藤の点滴に紛れ込ませる計画だ。そうすれば、すべての責任をミオに押し付けることができる。
「この男が死ねば、彼にとってあなたの価値はなくなるわ」朱里は無反応なミオの耳元で冷酷に囁いた。
決死の抵抗
拘束された佐藤は、激痛の中で活路を探していた。朱里の注意がミオに向いている今が、唯一のチャンスだった。
彼は右手の拘束がわずかに緩んでいることに気づいた。全神経を集中させ、限界を超えた力で腕を引き抜く。関節が軋む音がしたが、手は自由になった。彼は必死の思いで近くの器具を掴んだ。逃げ場はないが、ただ屈するつもりはなかった。
裏切りの果て
朱里が点滴に手をかけようとしたその瞬間、一本の手が彼女の手首を強く掴んだ。
それはエドではなく、ミオだった。
ミオは何も語らなかったが、その力は驚くほど強かった。感情を失ったはずの彼女の瞳が、何かを訴えかけるように震えている。
「離しなさい!」朱里が叫ぶ。
その隙を突き、佐藤は手にした器具を朱里の足に突き立てた。朱里は悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。
重厚な扉が開き、エドが姿を現した。彼は冷徹な眼差しで、血を流す朱里と抵抗する佐藤、そしてミオを眺めた。
「実に見事な構図だ」エドは静かに言った。彼は朱里を無視して佐藤に歩み寄り、その生命力を観察した。「まだこれほどの意志が残っているとは、素晴らしい」
次にエドは朱里へ視線を向けた。その目は凍りつくほど冷たい。
「朱里、個人的な感情で計画を乱すとは。君はもはや、私の右腕としての資格を失ったようだ」
「そんな……私はあなたのために!」朱里は泣き崩れた。
エドは彼女の言葉を切り捨て、ミオに指示を出した。
「ミオ、別の器具を用意してくれ。今夜、『パートナー』を入れ替えることにしよう。役に立たない駒はもう必要ない」
朱里は絶望に打ちひしがれた。彼からの拒絶は、どんな刃物よりも深く彼女を傷つけた。ミオが淡々と準備を始める中、佐藤は更なる惨劇の予感に震えるしかなかった。




