三ヶ月後のドライブ
久しぶりに高速道路を走っていた。
窓の外には、見慣れた山の景色。
海じゃない。
揺れもしない。
でも、どこか懐かしい。
「混んでないね」
助手席で私は言った。
「平日だからな」
ハンドルを握る拓真の横顔。
変わらないはずなのに、少しだけ余裕があるように見える。
三ヶ月。
クルーズから帰って、季節がひとつ進んだ。
⸻
サービスエリアに車を止める。
ドアを開けた瞬間、風が冷たかった。
「コーヒー飲む?」
「飲む」
自販機の前に並ぶ。
紙コップが落ちる音。
湯気。
一口飲む。
「……あ」
「なに」
「船の味じゃない」
拓真が笑う。
「そりゃそうだ」
同じコーヒーなのに、少し違う。
あのときは、時間がゆっくりだった。
今は車の音がして、人が行き交っている。
でも。
悪くない。
⸻
ベンチに座る。
行き先は決めていない。
「どこまで行く?」
「さあ」
いつもの答え。
でも以前と違うのは、焦りがないことだった。
時計を見ない。
渋滞情報も確認しない。
ただ、出かけている。
⸻
「なんかさ」
私が言う。
「前よりドライブ好きかも」
「前から好きだろ」
「うん。でも」
言葉を探す。
「急がなくていいって分かったからかな」
船では、景色が勝手に進んだ。
今は、自分たちで進む。
でも速度を選べる。
⸻
再び車に乗り込む。
エンジン音。
道路へ戻る。
夕方の光がフロントガラスに広がる。
「次の休憩、海寄る?」
拓真が言った。
「いいね」
即答だった。
海を見る理由なんてない。
でも、見たくなった。
⸻
車はゆっくり走る。
以前と同じ道。
でも少し違う時間。
私は窓の外を眺めながら思った。
旅は終わったはずなのに。
あの船の時間は、まだ続いている。
たぶん――。
私たちの中で。




