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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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阿吽の深層、番人の間。

石座に腰を下ろしたレイは、まだ完全に戻らない指先を握ったり開いたりしていた。


「……まだ固いな」


ユイがちらりと見て、鼻で笑う。


「当たり前でしょ。正面から無色に触れたんだから。

治すなら――固め、濃いめ、多めで、よ」


「薬の話だよな?」


「色の話でもある」


番人は二人のやり取りを静かに眺めていたが、やがて口を開いた。


「ユイ。そろそろ話す時だ」


ユイの肩が、わずかに強張る。


「……長くない?」


「長い。だが、避けては通れぬ」


ユイは一度、目を閉じた。

そして、ゆっくりと語り始める。


「無色王が現れる前、私の一族は“観測者”だった。

混ざらない色を守るために、混ざりすぎた未来を見張る役」


「それが……レッドフィール?」


「いいえ。もっと地味で、もっと影」


幻影が浮かぶ。

白い塔の地下、記録の間。


そこに立つ若き日のメガロと、もう一人の男。


「……昨日見たやつだよな?」


レイが息をのむ。


「番人の記録にあった人物だ」


ユイは頷く。


「その人の名前はニック。

無色王を最初に“人として”研究した学者」


番人が低く補足する。


「ニックはいいヤツだよ。

少なくとも、世界を救おうとしていた」


ユイの声が、少し震える。


「でも、無色は研究できなかった。

近づいたものから、意味を削いでいく」


幻影の中で、ニックの身体が徐々に灰色に変わっていく。


「そのとき、メガロは選択した」


レイが問いかける。


「……何を?」


「封印じゃない。“転写”よ」


ユイは、はっきりと言った。


「無色王の核を、ニックに移した。

人の意志で縛るために」


番人が目を伏せる。


「成功しかけた。だが代償は大きかった」


レイは理解し始めていた。


「……だからメガロは」


「そう」


ユイは続ける。


「ニックを“失敗例”として切り捨てた。

でも私は、最後に彼と話した」


幻影が切り替わる。

崩れかけた地下で、灰色の男が微笑む。


「『世界は嫌いじゃない』って言ってた」


ユイは拳を握る。


「だから私は忍びになった。

メガロの影から真実を探すために」


レイは、低く呟く。


「……今の今までか」


「そうよ。

あんたに会うまで、正面に立つ人間を信じられなかった」


番人は、最後にこう告げた。


「メガロは賢者だ。だが無垢ではない。

彼は無色王を“倒す”つもりはない」


「じゃあ、何を?」


「完成させるつもりだ」


沈黙。


レイは、固まりかけた指を見つめ、苦く笑った。


「……まるでカチカチのやつだ」


ユイが小さく笑う。


「でもね、完全に固まる前なら――削れる」


レイは立ち上がった。


「ニックを救えるか?」


ユイは、真っ直ぐに答えた。


「分からない。

でも、救おうとする価値はある」


番人は二人を見て、ゆっくりと頷いた。


「正面に立つ者と、影に生きる者。

そして、過ちを背負った賢者」


物語は、次の段階へ進む。


――無色王は敵ではない。

**完成されてしまった“答え”**なのだ。


それを壊すのか、塗り替えるのか。

選ぶのは、レイだった。


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