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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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敵が崩れ去った後も、阿吽の空気は重かった。

勝利の余韻より先に、レイは膝をついた。


「……くそ」


胸の奥が焼けるように痛む。

紫と白を同時に受け止めた代償が、遅れて現れていた。


影から現れたユイが、すぐに駆け寄る。


「ちょっと、無茶しすぎ!」


レイの呼吸は荒く、指先が微かに灰色に変色している。


「色が……抜けかけてる」


ユイは歯を噛み、懐から包みを取り出した。


「まったく、世話が焼けるんだから」


包みを開くと、乾燥した薬草と保存食。

彼女は慣れた手つきで、それを砕き始める。


「細かく刻むんだ。そのままじゃ、吸収されない」


「……料理みたいだな」


「似たようなものよ。生きるための調合」


レイが口に運ぶと、独特の苦みが広がる。

彼は顔をしかめた。


「……音、立ててないか?」


ユイは即座に言った。


「咀嚼音には気をつけな。

色を失いかけてるときは、感覚が過敏になる」


そのとき、空間の奥から、番人がゆっくりと姿を現した。

彼は、レイの変色した指を見て、短く息を吐く。


「そいつは困った」


「……俺、やばい?」


「命は取られん。だが“正面に立つ”代償は、確実に刻まれた」


番人は、床に杖を突き立てる。

すると、周囲に幾重もの幻影が浮かび上がった。


「お前が倒したのは、巨悪そのものではない」


ユイが眉をひそめる。


「じゃあ、何?」


「“食い残し”だ」


番人の声は低く、重い。


「世界には、色を憎む存在がいる。

混ざることも、守ることも、選ぶことすら拒むもの」


レイは、微かに顔を上げた。


「……それが、巨悪?」


番人は頷く。


「人はそれを“無色王”と呼んだ」


幻影に映るのは、巨大な影。

近づくだけで、色が剥がれ落ちていく。


ユイが、思わず呟く。


「……そんな匂いが?」


「感じたか。正面に立つ者は、最初にそれを嗅ぎ取る」


レイは、苦しそうに笑った。


「全部が悪ってわけじゃないだろ」


番人は、少しだけ意外そうな顔をした。


「ほう?」


「世界だって、人だってさ……いいヤツもいるよ」


その言葉に、ユイは一瞬だけ目を伏せ、静かに頷いた。


「だからこそ、無色王は厄介なのだ」


番人は告げる。


「善も悪も、選択も葛藤も――

すべてを“無意味”として喰らう」


沈黙が落ちる。


レイは、震える手で拳を握りしめた。

完全には戻らない指先の色を、はっきりと見つめながら。


「……それでも」


彼は立ち上がる。


「正面に立つのは、俺の役目なんだろ」


番人は、深く頷いた。


「その覚悟がある限り、阿吽はお前を拒まぬ」


ユイはため息をつき、レイの肩を支えた。


「……次は、ちゃんと生きて戻りなさいよ」


巨悪は、まだ姿を現していない。

だが確実に、近づいていた。


色を失いかけたその身で、

レイはなお――正面に立ち続けることを選んだ。

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