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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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阿吽の円環が完全に回転を止めた瞬間、空気が裂けた。

紫でも白でもない、濁った色の裂け目から“それ”は現れた。


歪みの集合体。

色を拒み、意味を拒み、ただ衝動だけで形を保つ存在。


「……初戦がこれかよ」


レイが一歩、前に出る。

背後の影から、ユイの声が飛んだ。


「待って、作戦は?」


「聞いてない」


「でしょ!? そんなの聞いてない!」


だがレイは止まらない。

正面に立つ者は、振り返らないと決めたからだ。


敵が吼え、重圧が叩きつけられる。

理屈も秩序もない、情熱に裏付けられた劣情の奔流。


「なるほどな……」


レイは笑った。


「父は昔ギャンブラーだったんだ」


「今それ言う!?」


「だからさ」


彼は地面を蹴り、真正面から突っ込む。


「賭けどころは――一番危ない場所だ」


ユイが歯噛みする。


「型破りだ…」


敵の腕が振り下ろされる。

回避すれば安全、だがレイはあえて懐に入った。


「ちょ、ちょっと!?

脇の下にいったい何があるってんだ!」


「弱点だろ。だいたいそうだ」


直感。

だがそれは、冷静な観察に裏打ちされた直感だった。


その瞬間、影から何かが投げ込まれる。


「レイ!」


彼は反射的に掴む。


「……これは?」


「それ、買っておいたぞ。

正面に立つやつは、装備も真正面向きじゃないとね」


紫と白が織り込まれた短剣。

受け止め、貫くための武器。


レイは一息で距離を詰め、敵の脇へ刃を叩き込んだ。

濁った色が悲鳴を上げ、崩壊を始める。


光が収束し、静寂が戻った。


レイは刃を下ろし、深く息を吐いた。


「……生きてるな」


影から現れたユイが、呆れたように笑う。


「初戦で正面突破とか、普通やらないわよ」


「でも、やれた」


番人の声が、空間に響く。


「逃げず、隠れず、混ぜもせず。

正面から受け、正面から終わらせた」


レイは一度だけ、振り返った。


「――以上で御座候」


それは宣言だった。

ここから先も、俺は正面に立つという。


阿吽は沈黙し、次の門を開いた。

世界は、彼を“戦力”ではなく――覚悟として認め始めていた。

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