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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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ユイが煙の中に消えてから、どれほどの時間が経っただろうか。

レイは一人、阿吽の中央広間に立っていた。


巨大な円環の床には、かつての世界地図が刻まれている。

番人が姿を現し、杖で一つの大陸を指し示した。


「あの大陸はかつて緑だったんだ」


刻まれた石は、今や灰色にひび割れている。


「色が混ざりすぎ、争い、そして枯れた。

逃げた者、隠れた者、影に生きた者……それでも世界は止まらなかった」


番人の視線が、まっすぐレイを射抜く。


「だから“正面に立つ者”が必要になる」


レイは一歩、前に出た。


「逃げないってことか」


「違う。逃げることも隠れることも理解したうえで、なお立つことだ」


突然、床から力の奔流が噴き上がる。

圧倒的な重圧に、レイの膝が軋む。


「正気でござるか?」


思わず漏れた言葉とは裏腹に、彼の瞳は揺れなかった。


「……力こそパワー!」


叫ぶと同時に、全身に紫が走る。

だがそれは暴走ではない。抑制された、研ぎ澄まされた光だった。


「心はダイヤモンドのように硬い。だが、俺の頭は氷のように冷静だ」


番人は、満足そうに頷く。


「感情に溺れず、理だけにも逃げぬ。

その均衡こそ、正面に立つ資格」


力の奔流が引いた瞬間、レイはふらついた。

番人が小さく笑う。


「万能ではないな」


「当たり前だろ。必要なのはビタミンとCだ……あと休憩」


その軽口に、空気が一瞬和らぐ。


だが次の瞬間、番人の目が見開かれた。


「……し、白目だと?」


レイの瞳が一瞬、完全な白に染まる。

それは“色を受け止める器”の証だった。


「すべてを混ぜるためではない。

すべてを正面から受けるための目」


そのとき、影の縁からユイが姿を現した。


「……やっぱり、あんたなのね」


レイは苦笑しながら答える。


「影が必要なら、正面も必要だろ?」


阿吽の円環が、静かに回り始める。

世界は再び、動き出そうとしていた。


――逃げる者、混ざる者、守る者。

そして、立つ者。


レイは、その最後の役割を選ばれたのだった。

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