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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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紫の回廊を抜けた先、二人は焚き火の前に腰を下ろしていた。

遺跡の外れにある休息地――色の干渉を受けない、数少ない場所だ。


レイは鍋を覗き込み、ため息混じりに言った。


「……やはりネギを入れたのか」


「入れた方が落ち着くでしょ。色も匂いも、記憶に近づくから」


ユイはそう言って、火に薪をくべた。炎が一瞬、灰色に揺らぐ。


「その火、強すぎるぞ。抜けば灰色に戻るぞ!」


レイの言葉に、ユイは一瞬だけ手を止める。

そして、ぽつりと口を開いた。


「……私が忍びになった理由、聞く?」


レイは頷いた。


「一度だけなんだな? 無理にとは言わない」


ユイは小さく笑った。


「優しいね。じゃあ、一度だけ」


彼女の脳裏に浮かぶのは、あの白い塔が崩れ落ちる夜。

色を固定する思想に縛られ、逃げ場を失った人々。


「私の一族は“残す役目”だった。白を守り、他の色と交わらせないための影」


「影……だから忍びに?」


「そう。正面から戦う資格はなかった」


追手から逃げるため、彼女は色を消す術を学んだ。

存在感を薄め、境界を滑るように移動する技。


「逃げるとき、師匠に言われたの。

“必要なものは西にある”って」


レイが首をかしげる。


「西?」


「うん。マーガリンは西に行けばある――ってね」


「……例え、独特だな」


「油は命を繋ぐでしょ? 西は“余剰”の方角。

混ざることを恐れない土地」


焚き火の向こうで、気配が揺れた。

誰かが近づいてくる。


レイが立ち上がり、低く問う。


「……私でござるか?」


その瞬間、ユイはレイの背後に回り、構えた。


「違う。追跡者よ」


そして、彼女は静かに印を結ぶ。


「ここからは私の役目」


一拍置いて、軽やかに告げた。


「どろんさせていただきます」


煙とともに、ユイの姿は薄れた。

だが完全には消えない。白を抱えたまま、影として残る。


レイはその背中を見送り、理解した。


――彼女は逃げるために忍びになったのではない。

混ざらずに、なお世界に関わるために、影を選んだのだと。


焚き火は再び、穏やかな色に戻っていた。

灰色には、ならなかった。


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