②
紫の光が収束すると、レイと忍びの少女は、見覚えのない小部屋に立っていた。
天井は低く、壁一面に色板と奇妙な器具が並んでいる。どう見ても試練の間だが、どこか生活感があった。
「……ここ、実験室か?」
少女は周囲を警戒しつつ、中央にある石卓を指さす。そこには半透明の液体が入った壺が置かれていた。液体は黄緑色に揺らめいている。
奥から、あの紫衣の番人が現れた。
「ここでは“判断”を示せ」
番人はそう言うと、色板を左右に並べた。
レイは思わず首をかしげる。
「右は左の反対だ……それは、そうなんだが」
少女が腕を組む。
「でも阿吽で“当たり前”は罠かもしれないわよ」
壺の液体がぶくりと泡立つ。番人が杖で指し示した。
「この色を完成させよ。だが、混ぜすぎれば崩れる」
レイは色板を覗き込み、眉をひそめた。
「黄緑はもう少し薄い! このままだと、主張が強すぎる」
少女は急にレイの額に手を当てる。
「ちょっと、集中しすぎ。熱はあるのか?」
「ない、と思う……たぶん」
そのやり取りを眺めながら、番人は静かに時を測っていた。
「かれこれ1時間でござろうか。迷いもまた、色の一部だ」
石卓の横には、なぜか鍋と刻まれた野菜が置いてあった。
少女がそれを見て、思わず声を上げる。
「……待って。これ、色じゃなくて“調合”っていうより」
レイも気づき、苦笑する。
「それにネギは入れるのか?」
番人は初めて、はっきりと笑った。
「入れるかどうかを決めるのは、お前たちだ。正解はない」
レイは深く息を吸い、壺の中の色を見つめる。
満たそうとせず、だが手を止めることもしない。
紫は、まだ完成していなかった。
そして彼は理解する。
この試練が問うているのは、色でも理屈でもない――選び続ける意思なのだと。




