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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
14/17

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無色王の核は、もはや“王”の形を保っていなかった。

選ばれなかった無数の答えが、渦のように漂っている。


その中心で、ニックは静かに立っていた。


「……レイ」


声は穏やかだが、決意だけが異様に重い。


「ここから先は、君でも見えない」


レイは一歩踏み出す。


「まだ何かあるのか」


ニックは足元の虚空を指差した。

そこには、細い裂け目が走っている。


「そこが切り取り線。つまり、人生のターニングポイントです」


「……切り取ったら?」


「世界が助かる。

だが――君は“正面に立つ者”ではなくなる」


ユイが影から姿を現す。


「どういう意味?」


ニックは、初めてはっきりとした感情を浮かべた。

それは、諦めに似た優しさ。


「完成を否定した世界は、必ず揺り戻す。

新しい“無色”が、何度でも生まれる」


「じゃあ……」


「私が、それを引き受ける」


レイの瞳が揺れる。


「ニック……」


「君が立ち続ける限り、世界は不安定だ。

だが、私が完全な“底”になれば――」


ニックは裂け目を見下ろす。


「混ざり続ける世界は、その上で踊れる」


ユイが声を荒げる。


「それって……

永遠に落ち続けるってことじゃない!」


ニックは、苦笑した。


「メガロっぽいだろ?」


その名前に、空間が軋む。


「彼は“保険”を用意した。

私は“責任”を残す」


レイは、思わず叫んだ。


「そんなの、選択じゃない!」


「違う」


ニックは一歩、裂け目へ近づく。


「これは、私が最後に“選ぶ”ことだ」


そのとき、核の外側で異変が起こる。

無色が再び密度を増し、全てを均そうと押し寄せてくる。


ユイが歯を食いしばる。


「……もう限界よ!」


影が震える。


「もう我慢できないのじゃ!」


「ユイ、待て!」


ニックが手を上げる。


「時間がない。

君たちが決める前に、世界が決めてしまう」


彼は、レイを見て、柔らかく笑った。


「正面に立つ者はな」


「……」


「背中を見せちゃいけない。

だから私は――前に落ちる」


ユイが叫ぶ。


「だったら、私が――」


「拙者にお任せあれ!

……って言いたいところだけど」


ニックは首を振った。


「君は影だ。

影は、底にはなれない」


レイの中で、何かが壊れそうになる。


「待てよ……!」


ニックは最後に、ふと軽い口調で言った。


「なあ、レイ」


「……何だ」


「君の物語さ」


彼は少しだけ、悪戯っぽく笑った。


「胸キュンポイントが…

ちゃんと残ってる」


そして、ニックは裂け目へ身を投げた。


無色が、一気に沈静化する。

核は崩壊せず、“底”を得たことで、世界を支える構造へ変わっていく。


だが――


レイの足元で、水晶球がひび割れた。


メガロの“保険”が、反応を始める。


番人の声が、遠くで響く。


「代償は、必ず残る」


レイは、理解してしまった。


――ニックは救われたのではない。

――世界を救うために、救われない役を引き受けたのだと。


正面に立つということは、

誰かの“落下”を、見届けることでもある。


レイは、震える拳を握りしめた。


それでも、前を向く。


なぜなら――

もう、背中を見せてしまったからだ。

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