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色は色めく色々と  作者: 境乃 シキ
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核の中心は、静かだった。

暴力的な圧も、拒絶もない。ただ、徹底的に“均された”空間。


そこに、人の形をした影が立っていた。


「……来たか」


声は低く、穏やかで、感情の起伏がない。

だが、レイには分かった――ニックだ。


「お前が、無色王?」


影は首を横に振る。


「違う。私は“残り香”だ。

無色王とは、私が捨てた答えの集合体に過ぎない」


レイは一歩、踏み出す。


「完成ってやつを、説明してもらおうか」


ニックは、苦笑ともつかない表情を浮かべた。

まるで――苦虫を噛むように。


「完成とは、選ばなくていい状態だ」


「選ばない?」


「善悪、勝敗、愛憎……

すべての分岐点で、迷う必要がなくなる」


ニックは床に手を伸ばし、無色の塊を掴む。


「例えるなら――ブロッコリーの茎の方!」


「……急にどうした」


「栄養はある。味も悪くない。

だが、人は房の方ばかり選ぶ」


無色が形を変える。


「完成した世界は、全部“茎”だ。

差がない。奪い合う理由もない」


レイは即座に返す。


「それは……つまらない」


「つまらない。だが、平等だ」


ニックはレイを見る。


「かつて俺は、迷っていた。

右か左か、正しいか間違いか」


彼は静かに言った。


「かつて俺はスイッチヒッターだった」


「両利き?」


「どちらも振れる。

だが、どちらも“決めきれない”」


無色王の核が脈動する。


「完成とは、振らなくていい世界だ」


その瞬間、レイの中で何かがはっきりと反発した。


「……それは違う」


彼は拳を握る。


「俺は」


レイは、無色の中心を指差した。


「俺は右手だけでお前の情熱を超える」


ニックの目が、わずかに見開かれる。


「不完全なまま、選び続ける。

外れても、傷ついても、だ」


無色がざわつく。


「それは苦しみを肯定することだ」


「そうだよ」


レイは、はっきりと言った。


「でもさ」


彼は少しだけ笑う。


「叔母の子の友達の従兄弟?

……みたいな、どうでもいい繋がりでも」


ユイの声が、影から重なる。


「人は、そこに意味を見出す」


ニックは、しばらく黙っていた。

そして、静かに言った。


「……あんたには感謝以外何もない」


「何に?」


「私が捨てた“迷い”を、

正面から肯定してくれたことに」


無色王の核が、ひび割れ始める。


「完成は、答えだった」


ニックは続ける。


「だが、答えは物語を終わらせる」


彼は、レイを真っ直ぐに見た。


「君は違う。

終わらせないために、前に立っている」


空間が揺れる。

無色は、もはや絶対ではなくなっていた。


だが、まだ崩壊には至らない。


ユイが叫ぶ。


「レイ! 核が“選ばれた”だけよ!

まだ決着じゃない!」


レイは頷いた。


「わかってる」


完成を否定しただけだ。

塗り替えるには、まだ足りない。


無色王は、静かに次の段階へ移行しようとしていた。


――世界を終わらせないための戦いは、

ここからが本番だった。

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