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プロローグ
世界は、色によって成り立っている。
赤は衝動、青は理、黄は願い。
そして紫は、それらすべてが交わる境界の色。
かつて世界が一度、完全に“満たされた”ことがあった。争いは消え、欠乏も迷いもなく、すべてが整然と配置された理想郷。だがその静けさは、成長という概念を奪った。満ちた世界は、もはや変化を拒んだのだ。
そこで賢者メガロは語った。
「満たされることと、満ち足りることは違う」
彼は世界から“余白”を切り離し、それを〈色の核〉として各地に散らした。人は不完全になり、悩み、渇き、そして再び歩き始めることを許された。
その代償として、境界は歪み、色と色の狭間に遺跡が生まれた。
人の意志と世界の理が同時に試される場所――〈阿吽〉。
そこでは問いが投げかけられる。
己は何色か。
そして、何色になろうとするのか。
紫は完成ではない。
紫とは、なお混ざり続けることを選んだ者の色。
やがて一人の青年が、答えを持たぬまま歩き出す。
師の言葉を胸に、満ち足りているが、決して満たされてはいない心を抱えて。
世界はまだ、彼を必要としていた。
余白がある限り、物語は終わらない。
――それが、阿吽へ至る道の始まりである。




