02.楽しみすぎた来院者
しおりに案内されてアンナはチェアに腰を掛ける。
背もたれに体を預けてから、足元を見て位置を整える。
診療室内は待合よりも機械が近く、棚や器具が視界に入る。
しおりは扉の位置を確かめ、診療室側へ合図を送るように視線を動かす。
しばらくして真人と智子が来る。
足音が近づき、扉が開く。
真人はアンナの前へ進み、智子は器具の配置を目で確認しながら定位置へ入る。
「あ、インチョー先生とトモコさんだね」
「はい、院長の真人です。今日は一番最初の受診ということで、お口の中の検査や写真を撮って資料作成メインになります」
「ふんふん」
智子は準備を整えながら、手順を頭の中でなぞる。
(本当はスケーリングまで行きたいけど……まぁ、無理だろうね)
「お口の中の検査や資料取りは智子さんが担当します。ではまずパノラマを取りたいので、座ってもらって申し訳ないのですが、こちらまでお願いします」
アンナはチェアから立ち上がる。
しおりが一歩引いて道を作り、真人が示した位置へ誘導する。
「はいよ。……サムが大興奮していたパノラマだね。いやぁ……第一号があたしだなんでサムには悪いことしたね」
「ははは……」
機器の前に立ち、位置を合わせる。
真人は必要な位置を示し、智子は資料取りの準備を続ける。
診療室内で最初の工程が進んでいく。
同じ頃、受付では入口に早すぎる来院者が立っている。
つむぎが視線を上げる。
「………サムさん」
「なんだ?」
「サムさんの予約時間は1時間後ですよ」
「うん」
「いくら何でも早すぎません?」
「うん。ちょっと楽しみすぎてね」
すずが入力の手を止めずに顔だけ向ける。
「……あの、お仕事は?」
「……部下に押し付けてきたから大丈夫」
二人は言葉を返さない。
「………」
「………一回ギルドには行ったんだよ?でもね、予約時間が楽しみすぎてソワソワしてたら部下たちに「邪魔だからもう出てってください」って追い出された」
「………あ、はい」
サムは待合を見回し、壁に貼られた紙へ視線を向ける。
内覧会の時にはなかった掲示が増えている。
「それよりも、この色々はってある物は何だ?内覧会の時にはなかったよな?」
直樹が前へ出る。
「それについては私から説明します」
「おお……色男くん」
「直樹です」
「そうそうナオキくん」
直樹は院内に掲示してある施設基準や口腔ケアの案内の紙について説明している。
掲示物の位置を示しながら順に説明を重ねる。
サムは近づいて聞き、視線を移しながら頷く。
すずが小さくつむぎへ声を落とす。
「……本当に直樹さんって仕事ができる人だよね」
「そうだね~……なんでこんな小さな歯医者さんなんかに……もっといいところあっただろうに」
背後から声が飛ぶ。
「……聞こえてるよ」
つむぎは姿勢を正し、志帆へ向き直る。
「あ、サムさん早く来ちゃったんですけど……どうします?」
「……まぁどうせ患者さん少ないし、みんな手が空いてるし……アンナさんのパノラマが終わったタイミングで大地君が診れるよ。」
すずは画面を切り替える。
「……直樹さんの対応が終わったらカルテ作っちゃおうか」
「だね」
受付の作業は止まらない。
診療室ではパノラマの準備が進み、待合では説明が続いている。
初日の流れは、それぞれの場所で同時に動いていく。




