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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第5章『ほほえみデンタル、落ち着かない初日』

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01.患者第一号

開業初日最初の来院者は商業ギルドの副ギルドマスターであるアンナ。

入口の扉が開いて、待合の空気が少しだけ動く。

受付カウンターの奥では、つむぎが顔を上げる。

すずは入力用の画面を開いたまま、手を止めないように指先を準備する。

まだ始まったばかりの時間なのに、ここまで積み上げてきた手順が一気に現実になる。


「さ~て、来たよ。はじめはどうするんだい?」


つむぎはアンナへ近づいて、受付の流れをそのまま口にする。


「アンナさんいらっしゃい。えっと、まずは患者さんの情報を作りたいから、個人カードをこのカードリーダーにとおして」


「はいよ」


アンナがカードを差し出して、つむぎの指示通りにカードリーダーへ通す。

カードが滑っていく感触に、アンナの手がわずかに止まり、機械の反応を待つ。

受付の機器が異世界のこの場所で動いているという事実は、開業準備の段階で何度も目にしてきたはずだった。

それでも、その瞬間ごとに「動いている」が更新される。


なぜカードリーダーが使えるのかはいまだに疑問だがもう誰もそのことにツッコまない。

いちいちツッコんでいたらきりがない。


つむぎはカードリーダーに表示される画面を説明しながら案内に操作を促す。

画面のどこを押すのか、どの項目を確認するのか、指先の動きに合わせて短く言葉を足す。

アンナは言われた通りに操作をして、最後に決定の位置を押し込む。


「はい。終わった」


「はい。ありがとうございます」


すずはそのやり取りの間に、オンライン資格確認の画面を切り替える。

取得できた情報が表示されて、名前と生年月日と性別が並ぶ。

入力欄へ視線を移し、ひとつずつ写していく。

手順は覚えている。

覚えているのに、手が迷わないように確認を挟む。


「あの、問診票……気になるところがないかとか書く紙になります。書き終えたら、受付カウンターまでお願いします」


アンナが紙を受け取って、文字量を見て口を尖らせる。


「はいはい……結構書くことあるんだね」


「まぁね」


アンナは一つ一つの設問をじっくり確認しながら丁寧に書いていく。

設問の意味が曖昧なところでペン先が止まると、つむぎが横から示す。

つむぎはアンナの隣に座り問診票に書かれている設問について説明している。

聞かれたところだけを、必要なだけ言い換える。

受付の隅では、紙が擦れる音とペンの走る音が続く。


その間に、すずはオンライン資格確認にて取得した情報をもとに基本情報を入力していく。

画面上で項目を埋め、次へ進み、戻って見直し、保存を確認する。

印刷の準備も同時に進めなければならない。

カルテファイルの置き場所を目で確かめ、プリンターの残量の表示を確認する。


(あとは問診票の住所と電話番号……あるのかな?……まぁいいや。基本情報が全部入力できたら1号用紙を印刷して……カルテファイルに挟んでと……。うん、問題なくできそう!)


入力欄はまだ残っている。

けれど、焦って打てば抜ける。

すずは画面を戻して、埋めた項目にカーソルを当て直していく。

名前。

生年月日。

性別。

確認のたびに、指先の動きが落ち着いていく。


「はい。書けたよ~」


「ありがとうアンナさん。準備ができたら呼ぶね~。だからそれまでそこの椅子に座って待ってて」


「はいよ」


アンナが待合の椅子へ向かう。

椅子の位置は、動線の邪魔にならないように、準備の時に何度も微調整した。

そこに腰を下ろすだけで、来院者の流れが形になる。

つむぎはアンナが座るのを見届けて、受付へ戻る。


すずは問診票に書かれている情報を確認する。

視線を上から下へ移し、必要なところを拾う。

書かれている文字は丁寧で、設問に対してきちんと答えている。

ただ、あるはずの欄が空白のまま残っていた。


(……住所と電話番号がない。そういう概念がないんだ。じゃあ、基本情報は名前と生年月日と性別だけか……)


すずは入力内容に漏れがないかチェックをする。

項目を埋めた画面をもう一度開いて、問診票の記載と照らし合わせる。

誤字がないか、誤選択がないか、順に見ていく。

その途中で、見慣れない欄に視線が止まる。


(……ん?……種族欄?……こんなのなかったのに……。………………うん、もういいや)


すずは笑顔になり1号用紙を印刷する。

印刷の開始を押すと、プリンターが小さく動き出す。

紙が吸い込まれ、排紙口からゆっくりと出てくる。

すずは印刷された用紙を手に取り、折れないようにそっと揃える。

そして、ポケットに指をかける。


「アンナさん来院しました。お願いします」


すずはポケットについている無線マイクで呼びかける。

声が飛んだ先で、診療室側の動きが返ってくるまで、数拍の間がある。

その数拍が、準備の時間と本番の時間を切り替える。


「さて、患者さん第一号だ。智子さん、しおりさん行くよ」


「はい」


「じゃぁ、アンナさん呼んできます」


しおりが診療室側から受付方向へ来て、待合へ視線を投げる。

アンナは呼ばれるのを待って、背筋を伸ばす。

つむぎは受付の端から、アンナの様子を見ている。


「アンナさ~ん。診療室へどうぞ」


「お、いよいよだね。なんか緊張してきた」


つむぎはカウンター越しに声をかける。


「アンナさんファイト!」


「行ってくるよ」


アンナはしおりに連れられて診療室内へと入っていく。

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