04. 知らない国の名前
建物の外に出たスタッフたちは、見慣れない景色から視線を離せずに立ち止まっていた。
目の前に広がる通りには、異様な静けさとざわめきが混ざり、複数の視線がほほえみデンタルへ向けられていた。
白い外壁の医院は、周囲の建物の様式とあまりに違っており、その存在がひときわ浮き上がっていた。
通りの向こう側では、人の姿をした者たちが足を止めてこちらを見ている。
中には、獣の耳を持つ者の姿も混ざっていた。
スタッフたちは自然と固まり、その中心に真人と志帆が立つ形になっていた。
「……え?あんたらはなんだい?突然大きな声をあげて」
近くにいた住民が歩み寄ってきた。
灰色の外套を羽織っており、小さな籠を片手に下げている。
住民の視線はクリニックの看板や入り口を何度も往復していた。
「え…と…日本人」
真人が答える。
言葉が通じるかどうかわからないまま口を開いていた。
「ニホン??なんだいそれ」
住民は首をかしげた。
風に揺れる髪の奥から、眉がひそめられているのが見える。
「私たちここに来るの初めてで…ここってどこですか?」
つむぎが一歩前へ進み、住民に向かって声をかける。
動作が迷いなく、振り返るスタッフの視線を集めた。
「つむぎさんすげぇ…」
近くにいた大和が小さくつぶやく。
「若いって素晴らしい」
智子が感心したように言った。
「なんだい。旅のひとなのかい?だから変わったふくそうしているんだね。」
住民の視線はスクラブの胸元や白衣の袖に向けられ、納得するように頷いた。
「は~い」
つむぎが自然な調子で返す。
住民は気をよくしたのか、視線を遠くの建物へ向ける。
「ここはエルディア王国だよ。あそこに見える大きな建物が王城でうちらの国王たちが住んでいるのさ。」
住民は城の方向を指差した。
遠くに見える建物は塔のような部分を持ち、石造りの壁が夕日を反射して淡く光っていた。
「へえ~…。ここはお城のおひざ元なんですね」
つむぎが視線を城へ向けながら言う。
「おひざ・・・?」
住民が言葉の意味をつかめず聞き返す。
「お城の近くにある町です」
つむぎが簡単に言い直す。
「そうだね」
住民が納得した様子で頷く。
「いろいろ教えてくれてありがとうございま~す」
つむぎが会釈し、ほほえみデンタルの方向へ戻っていく。
スタッフたちはつむぎへ視線を集めた。
「つむぎちゃんなんて?」
志帆が迎えるように尋ねた。
「エルディア王国ってところで、ここはその城下町みたいです。あそこに見えるのがお城でそこに王様がいるみたいです」
つむぎは城のほうを指差しながら説明する。
「え???つまり?」
大地が言葉を区切りながら口を開いた。
「もしかして、俺たち異世界に来ちゃった?」
大和が周囲を見渡しながら言う。
「ん?」
真人がつむぎと大和の顔を交互に見た。
「私たち、あの地震で死んじゃったってことですか?」
ゆかが控えめに声を上げる。
「テンプレ通りなら」
大和が腕を組むような動作をしながら返す。
「テンプレ?」
真人が聞き返す。
「君たち。院長副院長が固まってる。もっとわかりやすい説明を」
直樹が前へ出て、スタッフへ視線を送った。
「あ~…初老には難しい話ですね」
大地が静かな口調で言った。
「おい」
志帆が短く声を発する。
「冗談です。すみません」
大地がすぐに頭を下げる。
「えっと、ファンタジー小説にあるような設定で、私たちが異世界に来ちゃったわけです」
しおりが言葉を選ぶように説明する。
「なるほど……レイ〇ースみたいなことが起きたんやな?」
志帆が納得したように言う。
「なにそれ」
つむぎが眉を寄せながら返す。
「知らんの?!」
志帆が大きめの声を出す。
「世代かと」
智子が静かに言った。
「つら……」
志帆の肩が少し下がる。
「え?異世界……?え?」
真人が半歩後ろへ下がるような動きを見せる。
「真人先生が一番理解できてない顔してるわ」
智子が真人の表情を見ながら言う。
「院内に戻って状況整理しましょう」
直樹が全体を見るように言った。
スタッフたちは同じ方向へ動き始め、足並みをそろえて院内へ戻っていった。
外からの視線が背中に刺さるように感じられる空気の中、全員が建物の中へ入り、扉が静かに閉まった。




