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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第4章『ほほえみデンタル、はじまりの日々』

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07.留守のあいだに

ほほえみデンタルの中は、院長たちが戻る直前まで、落ち着いた時間が流れていた。

診療はまだ始まっておらず、開業準備の途中という空気だけが残っている。

受付カウンターの上には、整理途中の書類が整然と積まれ、ペン立ての中身も向きを揃えられていた。

ユニット周りは一通り確認が済んだあとで、ライトの位置や椅子の高さも、誰かが触った痕跡のまま止まっている。


床はすでに乾き、さきほどまでの掃除の気配はほとんど消えていた。

それでも、院内にいる全員が、何もなかったとは思っていない。

留守のあいだに起きた出来事が、まだ言葉にならないまま、場に残っている。


入口の扉が開き、足音とともに声が響いた。


「戻りました」


続いて、少し明るさの混じった声が重なる。


「ただいま~」


最後に、疲れを隠さない声が続いた。


「戻ったよ~……みんなゆっくり休めた?」


院内にいたスタッフたちの視線が、一斉に入口へ向かう。

短い外出だったが、戻ってきた三人と、留守を預かった側の間には、確かな時間差があった。


智子は一歩前に出て、落ち着いた調子で応じる。


「おかえりなさい。まぁ有意義な休日を過ごせましたよ」


一言の中に、色々あったことが含まれている。

だが、ここではそれ以上掘り下げない。


志帆は靴を揃えながら院内を見回し、すぐに一箇所で視線を止めた。


「それはよかった。……で、大和は何で正座していてしおりは怒っているんだい?」


視線の先には、床に正座したまま動かない大和と、その前に腕を組んで立つしおりの姿がある。

説明を求めるまでもなく、何かあったことは一目で分かる光景だった。


あすかは少し間を置いてから、端的に答える。


「……まぁ色々あったんです」


詳細を省いた言い方は、逆に状況の多さを伝えている。


「ふ~ん」


志帆はそれ以上追及せず、軽く流した。

後で聞けばいい話だと判断したようだった。


真人は空気を切り替えるように、別の方向へ視線を向ける。


「大地君特に変わりはない?」


大地は少し考えるように眉を寄せる。


「う~ん……特に大きな変化は…あ……」


言葉が途中で止まる。

その一瞬の間に、真人の反応が変わった。


「何?!」


声の調子が一段上がる。


ゆかが落ち着いた声で補足に入った。


「ほほえみデンタルがレベル2になっていて、ギフトが送られてきました」


聞き慣れない単語が、会話の中に落ちる。


「ギフト?」


志帆の声には、疑問がそのまま乗っていた。


すずが簡潔に答える。


「舌圧測定器です」


「舌……???」


志帆の思考が一瞬止まる。


智子は、説明を補うように続けた。


「舌圧測定器ですよ。ほか、口腔機能を検査する」


説明が終わる前に、志帆が強めに返す。


「それくらい知っとるわ!」


勢いだけでなく、多少の照れも混じっていた。


「失礼しました」


智子はすぐに引いた。


真人は首を傾げ、確認するように言う。


「………え?それだけ?」


期待していた内容との落差が、声に出ている。


「はい」


すずの返答は短く、揺らがない。


大地は肩をすくめる。


「う~ん……まぁそういう反応になりますよね」


必要な機器ではある。

だが、劇的な変化を感じさせるものでもない。


直樹が、ふと根本的な疑問を口にする。


「というかなぜレベルが上がったんですか?」


美里が即答する。


「内覧会が成功したからみたいですよ」


一拍置いて、志帆が聞き返す。


「は?」


同じ言葉が、もう一度繰り返される。


「内覧会が成功したからみたいですよ」


聞き間違いではなかった。


真人は腕を組み、天井を見上げる。


「……開業したらレベル上がるのかな?」


志帆は眉をひそめる。


「……いやいやいや……確かに欲しかったけど!」


欲しかった。

だが、今ではない。


しおりが小さく頷く。


「ですよね~……」


その流れで、志帆は思い出したように視線を戻す。


「あ、お説教終わったんや?」


「はい」


しおりの返事は簡潔だった。


真人はしおりの後ろで倒れている大和をちらりと覗き見て、心の中で合掌する。


直樹は場をまとめるように言う。


「まぁ、何かしらレベルが上がったら特典がくるってことですね」


「そうかもですね」


大地も同意する。


志帆は腕を組んだまま、首をかしげた。


「解決してるのかしてないのか……」


進んでいるようで、まだ途中。

そんな感覚が残る。


そのとき、あすかが小さく手を挙げた。


「あ、もう一ついいですか?」


真人は即座に反応する。


「次はなに!?」


院内の視線が、自然とあすかへ集まった。

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