02.この国の医療事情
医療ギルドの中に、真人と志帆と直樹、それからサムとギルド職員たちが集まっていた。
ほほえみデンタルのことを話すために、全員が同じ場所にいる。
直樹はこれまで聞いた話をつなぎ合わせる。
「……つまり、この国では教会が医療の全てを担っていて、医療ギルドに登録されている診療所とかは教会が匙を投げた患者を受け止めるだけの場………ってことなんですね」
言葉のあとに、短い間ができる。
「……まぁ、そうなる」
サムの声が一度だけ響く。
志帆はその言葉をそのまま自分たちに当てはめる。
「え?そうしたらあたしらのデンタルクリニックも・・・」
問いの続きを待たず、別の言葉が重なる。
「噂が広がれば教会が来て、技術やら何やらを根こそぎ持っていかれる可能性がある」
教会という単語だけが、はっきりと耳に残った。
「え?!困る!!支払い残ってるのに!!」
真人の声が一気に跳ね上がる。
「いや、そこやない」
すかさず志帆の突っ込みが飛ぶ。
「院長……」
直樹の短い一言が続く。
真人は一度だけ息を整える。
頭の中で別の心配事を並べ直す。
「ごめん。………でも、持っていかれたとしてだよ?使えるのかな?」
歯科の器具と、この国の人間の手元が並ぶ。
志帆の視線は現実のほうに向いていた。
「まぁ……それはそう。どの器具をどう使うかとか、レントゲンの撮り方とか注意点とか知らんやろ」
器具、撮り方、注意点。
言葉が順番に口に出される。
「……それでも強引に持っていくのがあいつらなんだよ」
サムの言い方に迷いはなかった。
直樹はその一言だけを拾う。
「対策……考えなければ」
この場だけで終わらせることはできない。
真人はすぐに次の行き先を決める。
「そうだね。医院に戻って対策しないとね!」
戻る場所と、そこでやることがひとつ増える。
「俺たち医療ギルドもやられっぱなしはごめんだからな。全力でお前さんたちをまもってやる」
サムの言葉に、側で聞いていた職員たちが声を合わせた。
「はい!二度と墓場ギルドなんて言わせない!」
墓場という言い回しが、そのまま繰り返される。
「墓場ギルド……」
志帆が口の中でなぞる。
「いやな響きですね」
直樹の言い方は淡々としていた。
真人は別の疑問を一つ出す。
「ちなみに強引にってどんな感じで……」
そこで具体的なやり方が並ぶ。
「やり方はいろいろだが……聖騎士つかってとか、魔法でとか……」
聖騎士と魔法。
教会の名と同じくらい、分かりやすい力の言葉だった。
「教会が聞いてあきれますね」
直樹の声に、志帆の言葉が続く。
「ほんまやね」
二人の受け止め方は変わらない。
真人は現実に引き戻される。
自分たちの医院の様子をそのまま重ねる。
「……そんな風に来られたら………大丈夫かな?」
入口や受付に立つ顔がいくつも浮かぶ。
「確かにお前さんのところは女の子や子供が多いからな」
サムの認識はそこに向いていた。
「え?」
真人の反応は短い。
「あ……彼女たちは成人しています………」
直樹が年齢のことだけを訂正する。
「………???13歳とかじゃないのか?」
サムの数字は、まったく違う場所を指していた。
「一番若くて21歳です。一番年上は、真人さんと私です………40歳になります」
志帆が実際の数字を並べる。
その瞬間、部屋のあちこちから声が跳ねた。
「えぇえええええ!!」
驚きの声は一人だけではなかった。
「嘘だろ………」
サムの声も同じ側にいる。
「歯医者って若返りの効果があるのか……」
ギルド職員の一人が、素直な感想を漏らした。
「いや、ないですけど……あ、まぁ口腔ケアによってはあるのか?」
直樹の言い方は慎重だった。
言葉尻にだけ、仕事の内容がくっつく。
「いや、だからと言ってマイナス10とかはないやろ」
志帆が線を引く。
真人はその線のこちら側で一言だけ添える。
「志帆さんはいつまででたっても綺麗だもんね」
返事の代わりに、音がいくつも重なる。
「やっだぁ~真人さんったら」
真人の背中をバシバシたたく志帆。
手のひらが当たるたびに、布と体の音が続いた。
「………」
直樹は言葉を挟まない。
視線だけが少しだけ横にずれる。
「いたたたた……痛いよ~」
(それより……聖騎士の方の安全策を考えるのが優先かな。志帆……こう見えて空手の有段者だから)
「あははははは」




