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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第1章『ほほえみデンタル、異世界へ』

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3/7

03.外に広がるもの

揺れが収まったあと、診療室には静けさだけが残っていた。

棚に置かれた器具がかすかに揺れ続け、照明の光がその金属面に細い線を描いている。

スタッフたちはチェアの周辺で姿勢を整え、それぞれが自分の体に異常がないかを確かめるように視線を落とした。

受付側でも紙袋が倒れたままになっており、揺れの大きさが残した痕跡だけが院内に散らばっていた。


「……収まったか…?」


真人が周囲を見渡しながら言う。

胸の前で握った拳がわずかに震え、指先の動きが止まる。


「…結構大きかったわね」


志帆が白衣の袖口を軽く直し、呼吸を整えながら応じる。


「みんな無事か?!ケガしてる人はいないか?」


真人が声を上げる。

その声に、スタッフたちの視線が次々と向いた。


「無事で~す」


大地がチェアの背から手を離しながら答える。


「私もです」


智子が器具棚の前で姿勢を整えて返す。


「同じく」


あすかがスケーラーを置き直しながら言う。


「怖かった~」


しおりが受付カウンターに手をつきながら声を漏らす。


「長かったですよね…」


すずが胸の前で手を重ねながら言った。


つむぎが待合室に歩いていき、壁掛けのテレビの前で止まる。


「あ、ニュースニュース」


つむぎがリモコンを手に取ってテレビの電源を入れた。


「……あれ?何も映らない」


つむぎが画面を見つめる。

黒い画面のまま光が戻らない。


「見せてください」


直樹がつむぎの隣に立ち、リモコンを受け取った。

チャンネルを変えるためにボタンを押すが、画面には変化がなかった。


「さっきの地震で何か障害が?」


直樹が画面を見ながら言う。


「あかん。スマホも通じんわ」


志帆がスマホの画面を見つめ、アンテナ表示が圏外になっているのを確認した。


あすかが診療室の中央へ歩き、真人のほうを向く。


「院長……明日どうします?」


「……こんだけの大きい地震だからな…明日の内覧会は中止だな」


真人がゆっくりと答える。

照明の光が白衣の胸元に落ち、影が床に長く伸びた。


「ですよね~…さすがにみんな避難しているでしょうし」


あすかが肩を落としながら言う。


「余震もありそうですからね」


智子が器具トレーの前で姿勢を正す。


「みんなには悪いけど…中止のお知らせの張り紙つけるのと……。さっきの地震で結構もの落ちただろう?だから片付け手伝ってくれるか?」


真人が周囲を見回す。

床にはいくつかの器具が転がっていた。


「は~い」


つむぎが手を上げる。


「入口に張り紙貼ってきますね」


すずが入口へ向かって歩き出す。


「足元きぃつけや」


志帆が背後から声をかける。


「は~い」


すずが振り返らずに返す。

ガラス扉の向こうへ消える。


スタッフ全員が散らばった器具を拾い集め、元の位置に戻し始めた。

チェア下の空間から出てきた小さな物品を拾う音が重なり、院内には規則的な動作だけが続いた。


「大地君。チェアや電カルのチェック手伝ってくれ」


真人が大地に声を向ける。


「わかりました」


大地がCT前の資料を置き、チェアへ向かった。


そのとき、入口のほうから叫び声が響いた。


「院長~~~~~~~!!!副院長~~~~~~!!!」


すずが全力で走ってくる。

足音が通路に連続して響き、息の乱れが声に混ざっていた。


「なんや。どないしたんや?」


志帆が振り返る。


「あ、……あの。……ここ、どこですか?」


すずが言葉を途切れ途切れに発した。

視線は院内の床と志帆の顔を行き来していた。


「どこって…東京郊外の……」


志帆が当然のように答えかけた瞬間。


「ですよね!!」


すずが早口で返し、両手を胸の前で握りしめる。


「落ちいて。深呼吸して。外が大惨事なのか?」


直樹がすずの肩にそっと手を添える。

その動きで、すずの呼吸が少し整った。


「……あの、なんて説明したらいいか…」


すずが目を伏せる。


「一緒に外見に行く?」


つむぎがすずの隣に立つ。


「見てもらった方が早いかもしれないです」


すずが扉のほうへ視線を向けた。


真人が片付けの手を止め、スタッフ全員が入口へ集まった。

器具を持っていた者は手を止め、動作がそこで切れる。

全員が同じ動きで入口の外へと歩いた。


ガラス扉を開けた瞬間、冷たい空気が院内へ流れ込んだ。

院外の景色が目に飛び込んだ。


見たことのない建物。

見たことのない街並み。

そして──ほほえみデンタルクリニックを囲むように立つ人々。


その中には獣の耳を持つ者の姿もあった。

全員がクリニックをじろじろと眺めている。


「……え?」


真人が声を絞り出す。


「ここどおぉぉぉぉ!!!?」


全員の叫びが外へ響いた。

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