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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第3章『ほほえみデンタル、異世界の医療へ一歩』

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02.朝の呼び込みとギルドの後押し

朝の通りに、呼び込みの声が伸びていた。

ほほえみデンタルクリニックの前では、しおりとすずが並んで立っている。

扉の横に置かれた簡易の看板には、昨日と同じように案内の文字が並んでいた。

人の歩く気配はまだまばらで、石畳の上に落ちた影も長い。

時折通り過ぎる荷車の音が、呼び込みの声の合間を縫っていった。


しおりは胸の前で両手を軽く握り、通りの先を見つめる。

隣ですずが小さく息を吸い、視線を通りに向けたまま立っていた。

二人の制服の裾が、通り抜ける風に揺れる。


そこへ聞き覚えのある声が近づいてきた。

軽い足音が石畳を踏み、影が二人のそばで止まる。


「お、今日の呼び込み係は昨日と違う子なんだね」


しおりが振り返ると、医療ギルドのローブをまとった男が立っていた。

その姿を見た瞬間、昨日の光景が重なる。


「あ、昨日の医療ギルドの……」


すずも慌てて姿勢を正し、男の顔を見上げた。

目の前の人物が誰なのかを確かめるように、一度だけ瞬きをする。


「ギルドマスターのサムさん……ですよね」


サムは肩をすくめるように笑い、手をひらひらと振った。


「サムでいいよ。覚えていてくれてありがとう。今日までって聞いてたからね~」


しおりは一度うなずき、通りの先に目をやる。

人の流れはまだ少ないが、昨日とは違う感覚が足元に残っていた。


「う~ん……その予定なんですけど、あれから住民の方にいろいろ説明してたら2日じゃ足りないかも…って話がでて」


言葉の途中で、昨日の混雑の様子が頭をよぎる。

受付の前で説明を重ねた場面や、診療室の前にできた小さな列の様子が重なった。


「明日もやりますか?って今検討している最中なんです」


すずが言葉を継ぎ、両手をそっと重ね直す。

視線はサムに向けたまま、声は少し控えめだった。


「一応今日の午前の様子を見て決める感じではあるんですけど……」


しおりが付け足すように言う。

サムは顎に指を当て、二人の前でわずかに首を傾けた。


「ふむ……昨日、我々が帰った後が大変だったようだね。悪いことをしたね」


すずは首を横に振り、両手を軽く振った。


「あ、いえそんなむしろ感謝してます」


しおりもすぐに言葉を重ねる。

昨日の朝からの人の少なさと、サムたちが来てからの変化が、胸の奥に残っていた。


「全然人が来なかったから……やっぱり信頼のある人が来ると違うんだなって……。あとは私たちの準備不足というかなんというか……」


すずとしおりは、視線を一瞬だけ互いに交わす。


(そもそもの基準が違うからなぁ……)


胸の内側で浮かんだ同じ言葉が、そのまま口に出たように重なった。

二人は小さく息を吐き、それぞれの視線を再びサムへ向ける。


サムは腕を組み、通りとクリニックの看板を交互に見た。

少しの間だけ考えるような沈黙が落ちる。


「……そういうことなら我々医療ギルドが力になれるかもしれない」


静かな言葉に、すずの肩が跳ねる。


「え?!」


しおりも目を丸くし、サムの顔をまじまじと見た。


「どういうことですか?!」


二人の反応に、サムは軽く息を吐き、言葉を続ける。


「新しい施設についてはギルドに問い合わせも来たりするんだよ」


しおりは頷き、足元の石畳から視線を上げた。


「……はい」


返事を聞いたサムは、視線を少し遠くへ向ける。

通りを歩く人々の背中に視線を滑らせながら、話を続けた。


「ただ、デンタルクリニックや口腔ケアって新しい分野はギルドでも把握していない。だからこちらも対応に困っていてね……。広報担当を後で来させるからその子に色々説明してくれるといいように住民に周知してくれると思うよ」


すずは瞬きを重ね、サムの言葉をなぞるように頭の中で整理していく。

そして、ふと昨日の部下の姿を思い出した。


「昨日の部下さんは広報担当ではないんですか?」


サムは苦笑いを浮かべ、首を左右に振る。


「昨日はデンタルクリニックというのが何かを調査する目的だったからね……」


しおりは納得したようにうなずき、表情を少し和らげた。


「なるほど……。じゃあ仕方ないですね」


サムは二人の顔を一人ずつ見て、声の調子を少しくだけさせる。


「昨日のインチョーとフクインチョーにあとで広報が来るって伝えておいてくれ。じゃあ……あ、飴ちゃんたべるかい?」


そう言って、ポケットから小さな包みをいくつか取り出す。

包み紙の色は何種類かあり、手の中でころりと転がった。


「……あ、もらいます」


しおりがすぐに手を伸ばし、飴を一つ受け取る。

指先で包みをつまみ、光にかざすようにしてからポケットへしまった。


「…あ、りがとうございます」


すずも遠慮がちに手を差し出し、飴を受け取る。

掌の中に収まった小さな重みを一度確かめ、制服のポケットにそっと入れた。


サムはその様子を見て、小さく笑う。


「こんなに小さい子が頑張っているからね……我々もバックアップするよ!」


しおりとすずは、一瞬だけ顔を見合わせた。


「……ん?????」


二人の声が重なり、間の抜けた響きが通りに漂う。

サムはその反応を気にした様子もなく、軽い足取りで通りのほうへ歩き出した。

ローブの裾が揺れ、背中が人の流れに紛れていく。


「小さい子…??」


しおりは手元の飴の包みを見下ろし、首をかしげる。


「………サムさんの中で私たちいくつなんでしょうか……」


すずは通りの先に小さくなっていく背中を見つめたまま、ぽつりと言葉を落とす。


「……さぁ?」


しおりは短く答え、肩をすくめる。

二人は並んで立ち、サムの後姿が完全に見えなくなるまで視線で追った。


やがて通りのほうから、別の人々の足音が近づいてくる。

買い物袋を持った者や、用事の途中らしい者たちが、看板の前で足を止めた。

しおりとすずは表情を切り替え、扉の前から一歩前に出る。


通りを行き交う人々の中から、クリニックに興味を示した者たちが視線を向ける。

二人はそれぞれの位置から、案内の言葉をかけ始めた。

呼び込みの声が再び通りに広がり、クリニックへ足を運ぶ人たちを迎えていく。

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