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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第2章『ほほえみデンタル、内覧会という挑戦』

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09.悪くなる前にケアをするということ

外の空気はまだ動きが少なく、建物の周囲には静けさが残っていた。

入口前に立つつむぎは、呼び込みを続けていたせいか額にかかった髪を指先で払う。

視線を通りの先へ向け、深く息を吸い込みながら口を開いた。


「う~ん……。なかなか人が来ない」


その隣でゆかが腕を組み、目線だけで周囲を探る。

視線の先では、遠巻きに建物を見ている者がちらほら動いていた。


「見てる人はいるんですけどねぇ……」


つむぎは腰に手を当て、気合いを込めたように胸を反らした。

声を張る準備を整えながら呟く。


「頑張ってるんだけどなぁ…」


ゆかは通りを歩く影の動きを追っていたが、ふと視線を奥へ向けた。

見覚えのある白衣が小さく揺れ、複数の影を伴って近づいてくる。


「……ん?……あれ、志帆先生と大和さんじゃないですか?」


つむぎは歩いてくる一団を見て目を見開き、急いで姿勢を整えた。

白衣の二人の後ろに、見慣れない体格の人影がついてくる。


「本当だ!!………後ろの人たち誰?」


志帆は入口へたどり着くと、白衣の裾を軽く押さえながら二人へ向く。

呼び込みの声に混じらないよう、落ち着いた声を落とした。


「ただいま……呼び込みお疲れ様。順調?」


つむぎは肩をすくめ、口を尖らせて返す。


「アンナさん以外成果な~し」


ゆかは来客の影をもう一度探し、首をかしげながら続けた。


「見てはいるんですけどね……ところで後ろの人たちは?」


志帆は背後に立つ三人を軽く示し、白衣の胸元に手を添えて説明した。


「医療ギルドのギルド長とその部下」


大和は後ろの三人へ視線を向けながら、隣で補足するように口を開いた。


「サムさんと………えっと…」


その迷いを断つように、後ろの男が一歩前へ出た。

足音が静かに響き、落ち着いた声が空気を切る。


「初めましてお嬢さんたち。医療ギルドのギルドマスターのサムです。うしろのはマイク、ギル、ジョージだよ」


後ろの三人は揃えて軽くお辞儀をし、胸の前で静かに手を揃えた。

その礼が終わると、サムは視線を医院の中へ向ける。


「さて、見せてもらおうか。デンタルクリニックの全貌を!」


志帆はサムたちを案内するため、白衣の裾を揺らしながら中へ向かった。

入口を越える瞬間、振り返って声をかける。


「医療ギルドの人を連れてきたよ~」


室内にいた真人は、カルテを片づけていた手を止め、驚いたように顔を上げた。

足元に置いた椅子を軽く押し、志帆の方へ歩み寄る。


「あ、志帆~お帰り。全然人来なくってさ~……内覧会失敗かなぁ?」


志帆は眉を寄せ、真人の白衣の胸元を軽く引っ張るように近づいた。


「真人さん……。医療ギルド……役所の人連れてきたから案内しな」


真人は動きを止め、目を大きく開いた。

視線でサムたちを確かめるように確認し、声を震わせる。


「え!?うそ!!」


志帆は肩を落ち着かせ、落ち着いた声で続ける。


「どんな治療をしてどんな機械を使うのか説明してあげて……歯科治療のことを何も知らない人だと思って」


真人はごくりと喉を鳴らし、表情を引き締めた。


「わ……わかった」


サムたちが診療室の入口へ近づくと、照明の反射で器具がわずかに光を返した。

サムはその光景に足を止め、視線を大きく動かす。


「ほぉ~…これが口の治療施設…」


マイクは診療台を覗き込み、手のひらをそっと椅子の背へ向けた。


「変わった椅子ですね…」


真人はその言葉を受け、診療台の横へ立ちながら実演するように手を動かした。


「これに患者さんが座って……こんな感じで倒して口の中を診ていきます」


ギルは椅子の角度が変わる様子を確認し、驚きをそのまま声にした。


「この椅子倒れるんですね…」


ジョージは器具の先端を指先で示し、形状を確かめるように目を細めた。


「この小さな器具で歯を治療するのか……」


真人は器具の位置を整えながら、自然に声を返す。


「はい。そうですよ」


奥の壁に設置されたモニターへ視線が集まると、サムは映し出された画像を見て声の調子を上げた。


「おぉ!!これが口の状態がわかるパノラマってやつなのか」


モニターの側で大地が立ち、指先で画像の部分を示しながら説明に入った。

姿勢は落ち着いていて、視線は真っ直ぐ画像を捉えている。


「はい。これはパノラマのサンプルですけど……撮ったらこんな感じでわかるんです」


サムは画像の中心から端までをじっくり見て、途中である部分へ視線を固定した。


「これで…ん?この横になっているのは?」


大地はその指さす場所を一度見てから、区別するように画像へ手を添えた。


「これは水平性……奥の方にある歯が横になった状態です」


サムはその説明を受け、視線を横に移しながら声を落とした。


「へぇ……すごいな」


大地は画像の下部を示し、それに近い歯の根元へ視線を移して続けた。


「こういう状態だと、この隣にある歯の根っこの部分を溶かしてしまってダメにしちゃったりするんです。そうなるとその歯の寿命も短くしちゃって……。ただこのパノラマに映っているこの横向きの歯は表に出ていないのでこういう風に撮らない限りわからないです。奥の歯が表に見えている状態の場合もありますが、その場合なかなかケアが難しくって虫歯になったりしやすいです」


ジョージは腕を組み、少し身を乗り出した形で問いかける。


「この横向きになっている歯は見つけ次第すべて抜くのか?」


大地は画像から目を離さず、ゆっくりと首を振った。


「炎症……異常が見られなければ無理に抜くこともしないですね」


ギルはその判断に意外性を感じたのか、眉を上げたまま声を落とす。


「抜かないということもできるのか…」


大地は画像へそっと手を戻し、静かな声で続けた。


「はい。ただ抜かないという判断をした以上、定期的に歯の状態は見せてもらいたいですね。これ以上口の中の状態を悪くしないためにも定期的に来てもらいたいです」


サムは大地の言葉を聞き、モニターへ向けた視線をゆっくり引いた。

胸の前で腕を組み、短い言葉を落とす。


「……悪くなってからでは遅いのか…」


真人は診療台の横に立ち直し、サムの言葉を受けて息を整えた。

視線はサムの目線より少し上を捉え、静かに告げる。


「……悪くなる前にケアをする。………それが我々の使命です。もちろん悪くなってしまったところの治療はしますけど……。ただ、それには患者さんにしっかり説明して納得してもらったうえでやります」


あすかは器具台のそばに立ち、拳を胸元に寄せるようにしながら声を上げた。


「私たち、いつまでも自分の歯でしっかりおいしいご飯を食べてほしいんです!」


サムは静かに頷き、視線を大地・真人・あすかへ順に向けた。

しばらく息を整えたのち、ゆっくりと口を開く。


「……患者さんにはいつまでも元気でいてほしい……。その気持ちは分かった。……よし、まずは我々がその治療とやらをしっかり受けてみようじゃないか。予約とやらをしていこう。ギルたちも予約していきなさい。ギルドに戻ったらほかの職員たちにも受けさせるように伝達しよう」


マイクは胸元に手を置き、目を輝かせるような姿勢で声を出した。


「正直、自分の口の写真……パノラマとやらをみてみたいですね」


サムはその言葉に軽く笑みを混ぜ、視線を前へ戻した。


「確かに……意外な事実がわかるかもしれないな」


サム、ギル、マイク、ジョージの4人は受付で予約を済ませると、

外の光へ向かって歩き出した。

扉が開く音だけがゆっくりと医院内に残り、しばらくして足音が遠ざかっていった。

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