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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第2章『ほほえみデンタル、内覧会という挑戦』

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07.医療ギルド、その扉の向こうへ

街の中心へ向かう道は、先ほどまで歩いた住宅街とは異なり、石畳の目地が細かく揃っていた。

足裏に伝わる硬さが均一で、踏みしめるたびに靴底へ一定の反発が返る。

建物が近づくにつれて、周囲の空気が静まり、壁面に反射した光が表面の陰影を強く浮かび上がらせた。

外壁は厚く重ねた石材で積まれ、窓枠には金属の縁取りが施されている。

その存在感は歩く速度とは関係なく目に迫り、志帆は自然と歩幅を揃えるように速度を落とした。


アンナが先頭で立ち止まり、建物の一角を指し示す。


「ここが医療ギルドのあるところさ」


志帆は石壁の高さを追うように視線を上へ滑らせ、息を整えてから短く言葉を漏らした。


「ここが……」


横にいた大和が首を反らし、正面の重量感を眺め回した。

口元がゆるみ、その場に似合わないほど素直な声が落ちる。


「すっげ~重厚な建物というか……国会議事堂みたいっスね」


志帆は大和の言葉に反応し、白衣の袖を指先で軽く整えた。

視線は建物の奥行きを測るように動き、石材の継ぎ目へとそっと寄る。


「まぁ、医療を統括している所って考えるとこういうもんなんだろうね」


アンナが急に振り返り、眉を上げながら声を投げた。


「なにブツブツいってるんだい?」


志帆は肩へかかる白衣を軽く払い、歩みを半歩止めてから声を返す。


「あ、ごめんなさいねぇ…。すごい建物だなって思って」


アンナは手を腰へ当て、指先で建物の壁を示す。

その動きには、この場に慣れた者だけが持つ迷いのなさがあった。


「あぁ、この大きな建物の一角に医療ギルドがあるんだよ。この中にはほかにも商業ギルド、探索ギルド、鍛冶ギルドとかもあるよ」


志帆の視線は再び建物の奥へ向き、石壁に刻まれた区画の境目を追うように動いた。


「ギルドの複合施設……」


大和は扉の重厚さと周囲の人の動きを見比べ、両手を腰へ当てた。


「いろんなギルドの本部がここにあるってことっスか?」


アンナはその問いに迷いなく頷いた。


「そういうこと」


志帆は白衣の胸元に指を添えて整え、隣にいる大和へ視線を寄越した。


「大和……あんただけが頼りだよ!」


大和は胸を張り、声に勢いを乗せた。


「任せてくださいッス!!」


アンナの背中が動き出す。

三人は建物の内部へ入るため、足音を整えてついていく。

廊下には石材特有のひんやりとした空気があり、靴音が低く反響した。

天井の高さに合わせて空気の層が広がり、歩くたびに衣服の布擦れが微かに響く。


やがて、複合施設の奥まった場所に小さな木製の扉が姿を現した。

装飾は控えめだが、周囲の壁と比べていくらか古い質感がある。


アンナが扉を手の甲で軽く叩く。


「ここが医療ギルドさ」


大和はその扉の幅や高さを見比べ、肩をすくめながら言葉を落とした。


「なんつーか……ほかの商業ギルドと比べると小さいっスね…」


アンナは扉の取っ手へそっと指を当て、視線だけを大和に向けた。


「まぁ、医者が少ないから仕方ない話だけど…」


扉が軋む音を立てて開かれ、三人は室内へ足を踏み入れた。

室内は外観よりも簡素で、木の机や書棚が規則的に置かれている。

紙の擦れる音と、隅で焚かれた香の乾いた香りがゆっくり漂っていた。


アンナは室内の奥へ向けて声を張る。


「ギルド長~。今度この街でデンタルクリニックってのをやる医者とその職員だよ」


奥の椅子がかすかに揺れ、座っていた人物がゆっくり体を起こした。

髪を後ろで束ね、机の書類へ視線を落としながら、低い声を発する。


「へぇ……新しい診療所の登録は50年ぶりだな…」


志帆は思わず声を漏らした。


「50…」


大和もその数字を受け止めたように、口元をわずかに緩める。


「すげぇ…」


椅子の主が立ち上がり、机の前へ歩み寄りながら名乗る。


「俺は医療ギルドの統括をしている、サムだ。よろしくな」


志帆は姿勢を整えて名乗る。


「志帆です」


大和も同じように短く挨拶を返す。


「大和です」


アンナはその二人の名乗りを確認すると、ふっと微笑みながら手を振った。


「あとは頑張りなよ。んじゃ、あたしは帰るよ~」


志帆は慌ててその背中を追う。


「あ、アンナさんありがとうございます!!」


大和も力強い声で続く。


「ありがとうございます!!」


アンナは扉の向こうで手を振り、そのまま軽い足取りで施設の廊下へ消えていった。


志帆はその姿を追いながら小さく呟く。


「ていうかアンナさん何者…」


机の向こうのサムが、肩を竦めるようにして言葉を返した。


「アンナは商業ギルドの副マスターだよ」


志帆は目を大きく見開き、息を飲むように声を上げた。


「………えぇぇえええ!!!」


大和も思わず両手を広げ、驚きを声に変えた。


「アンナさん結構えらい立場の人……」


サムは机上の書類を整えながら、気にした様子もなく説明を続ける。


「今日は休暇だって言ってたけど……まぁいいや。で、あんたたちその…デンタルクリニックってなんだい?」


志帆は額に手を添え、小さく肩を落とす。


「あ、そこから説明しないとか…」


大和も横でため息をそっと落とした。


「いやぁ…大変っスね」


志帆と大和は並んで立ち、机に置かれた書類を避けるように位置を調整する。

サムの視線が二人へ向けられる中、志帆が説明の始まりを切り出した。

大和も言葉を補いながら続き、三人の間にゆっくりと会話が積み上がっていく。

書類の紙がめくられる音や、机の上のインク瓶が触れ合う微かな振動が室内に広がり、その合間を縫うように説明が続いた。


医療ギルドへの登録はまだ終わりそうにない。

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