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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第2章『ほほえみデンタル、内覧会という挑戦』

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05.口の中の病気ってなに?

入口の戸がわずかに揺れ、外の光を含んだ影が院内へ滑り込んだ。

立っていた人物はその気配を感じ取り、呼吸の深さをほんの少し整えた。

胸元の名札が揺れ、姿勢がまっすぐになる。


「ほほえみデンタルクリニック内覧会へようこそ」


来場した住民は足を止め、服の色や質感を観察するように視線を上下させた。

袖口や髪の形に興味を向けながら、口元にゆるい笑みを作る。


「あら、色男ね。あんたか口の中の病気を見てくれるの?」


問いを受けた人物はまぶたを静かに閉じて開き、胸ポケットに触れてから半歩後ろへ退いた。

白衣を着ていない自身を示し、その横へ視線を誘導する。


「あ、いや私は受付でして…先生はこちらの白衣を着ている方です」


白衣の裾が光を受けて揺れ、副院長が前に進んだ。

歩幅は乱れず、住民の視線が自然にそこへ集まる。


「どうも。副院長の……志帆です」


住民は志帆の立つ角度や白衣の質感をじっくり見て、驚いたように目を丸くした。

髪の留め方を確認するように視線を往復させる。


「シホ先生。珍しいのね女の人が医者って」


志帆はわずかに頬を緩め、目の奥で反応を受け取る。

笑みを作る形だけを整え、声の調子を軽く上げる。


(女の医者が珍しい。貴重な情報ゲット!)

「ホホホ。頑張りましたから」


住民は腕を組み、肩を揺らしながら次の疑問を投げた。


「んで、フクインンチョーってのはなんだい?」


志帆は喉に一度だけ息を溜め、視線を下げてから戻す。

言葉を選ぶ間の沈黙が白衣の裾の揺れとともに流れる。


「……え~っと……ここの責任者の次に偉い人です」


住民は納得したように鼻を鳴らし、手のひらで空を切るように動かした。


「副ギルドマスターみたいなもんか」


志帆の返答が追いつく前に、横から勢いのある声が重なった。

その明るさが場の空気を軽く跳ねさせる。


「そんな感じっス!」


その声に合わせて隣の視線が動く。

あすかが目の形だけで“大正解”と合図し、大和は胸を張りながら小さく頷いた。


(ナイスフォロー!)

(もっと褒めて)


住民は院内の器具や壁の色を見渡し、眉を寄せながら問いかけた。


「んで、口の病気って?何があるの?」


志帆は袖を軽く整え、住民との距離を半歩詰める。

呼吸を一定に保ちながら口元へ指先を添える。


「こほん…まずは…虫歯…」


住民は聞き慣れない単語を舌の上で転がすようにして、小さく繰り返した。


「ムシバ…?」


志帆は住民の視線の高さに合わせるため、膝をわずかに緩めた。

手を口元へ向け、歯の位置を示すように動かす。


「………皆さんが普段モノ食べるときに使っている……この白いの。これは“歯”というものなのですが、ここに……病気の元が住み着いて………えっと……この歯を溶かして……痛たたたたたってさせちゃうんですよ」


住民は頬のあたりを押さえ、過去の感覚を思い出すように表情をゆっくり動かした。


「あぁ、あったあった。そうなったら教会ではどうすることもできないから診療所いって抜いてもらうのよ」


志帆はその単語に反応し、目の奥で意味を探すように動きを止めた。

声が自然と小さくなる。


「教会……」


そこへ大和の声が明るさを引き連れて切り込んだ。

空気が少しだけ軽くなる。


「俺たちは、その痛い痛いをひどくしないようにするためにいるんっスよ」


住民は驚いたように肩を跳ねさせ、顔を近づけて聞き返した。


「え?じゃあ、もうつらい思いをしながら抜かなくて済むってこと?」


大和は背筋をまっすぐにし、視線を正面へ固定した。

迷いのない声色が空間のざわつきをまとめる。


「……症状にもよりますが…仮に抜くとなっても、痛くないようにします」


住民の肩がすとんと落ち、表情が緩んだ。


「すごいな」


あすかは体を正し、住民との距離を自然に取りながら話を継いだ。

声には説明としての柔らかさだけが乗る。


「もちろん、痛くならないように日頃からお口の中をきれいにすることも大事なので、私たちはそのケア……どうしたら痛くならないか、どうきれいにしたらいいのかっていうことを定期的にお手伝いします!」


住民は院内のあちこちを見比べ、白衣の数を数えるように視線を巡らせた。


「なんか先生が多いな」


大和は青と紫の制服の裾を軽くつまみ、視線で示した。


「あ、先生は3人で、俺たちこの青と紫の服を着ているのは……衛生士……」


住民はその色の違いを見比べ、ゆっくりと目を細めた。


「エイセイシ…??」


あすかは穏やかに相槌を打ち、ゆっくりと説明を重ねる。


「先生は悪いところを治して、私たちは先生の補助をしたり、悪いところがこれ以上増えないようにケア……。……お手伝いする……んです」


住民はその言葉を飲み込むように頷き、視線を再び入口側へ向けた。


「なんかよくわからないけど……。先生とはまたちょっと違う立場なんやな。じゃぁ、あの眼鏡の色男と表に出てた子たちは?」


大和は受付側へ視線を流し、そこにいる仲間を思い浮かべるように息を整える。

声は誇らしさを押し出さず、ただ事実だけを置く。


「あの人たちは、受付で……お金のやり取りや、次回の治療の約束とか……お客さんといろいろとやり取りしてまとめてくれる大事な仲間です」


住民はその役割の違いを整理するように目を細め、院内の区分けへ視線を滑らせた。


「へぇ……しっかり分かれてるんだね。ほかの診療所とはおおちがいだよ」


あすかは喉の奥で笑いを転がし、肩の力を抜いた。


「あはははは…」


大和は肩を軽くすくめ、気取らない声で続けた。


「ま、…まぁ色々と話し合って決めましてね…」


住民は再び腕を組み、真剣な顔で問いかけた。


「……あ、あんたら医療ギルドに登録してあるのかい?」


あすかはその言葉をそのまま反芻するように、かすかに首を傾げた。


「……医療ギルド……」


住民は腰に手を当て、ため息とともに呆れをにじませた。


「まぁったく…どこの田舎者だよ。この国で医者でもなんでも新しいものを始める場合はギルドに登録しないといけないよ。代表者かそれの準ずる人が手続きしたらパパっと終わるから…。あとで連れて行ってあげるよ」


志帆は慌てて一歩前へ出て、白衣の裾を揺らしながら深く頭を下げた。


「あ、……ありがとうございます」


周囲のスタッフがわずかな間だけ沈黙し、胸の奥で同じ考えだけが静かに重なる。


(厚生局の異世界バージョンか……それとも歯科医師会や医師会……)


大和が志帆の側へ歩み寄り、声を落ち着かせて呼びかけた。


「志帆先生、後で一緒にいきましょうね」


志帆は静かに息を整え、白衣の袖を軽く直して返す。


「フォローよろしくね」


住民は両手を叩き、再び院内に興味を向けた。

視線は奥へ向かい、新たな話の始まりを促す。


「さ~て…いろいろ話を聞かせてもらおうかな。お口の中の病気とやら…」


智子がゆったりと歩幅を合わせ、案内するために前へ出た。

声は柔らかく、来場者が付いてきやすいように調整されている。


「は~い…。いろいろ院内の案内をしながら説明していきますね~」

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